俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
**

「え……?」

 パーティーを早々に切り上げた瑛弦は、自宅の寝室のベッドの上に置かれた鍵と1通の手紙を目にし、言葉を失った。

 いるはずの羽禾の姿はなく、室内はどこも真っ暗で。
 それどころか、視界に捉えた物から危険信号を察知した。

 恐る恐る手紙を手に取る。
 何百回とレースの場数を踏んでいる瑛弦でも、手の震えが止まらない。

 ドクドクと早鐘を打つ心臓を騙すように深呼吸し、開封した。

***

 瑛弦さん、レースお疲れ様でした

 1年前にこの部屋で過ごした日のことを憶えていますか?
 私にとってあの時間は、私の人生の中で一番の奇跡だと思っています

 あなたに出会えたこと
 あなたと過ごした時間

 今思い返しても、後悔という思いは1ミリもありません

 迷子の私を助けてくれた雨上がりのあの道
 背中をさすってくれたあたたかい手
 初めて手を繋いで歩いた公園
 お母様を見つめる優しい眼差し
 『羽禾』と呼んでくれる甘い声
 
 幸せな時間をありがとうございました

 ますますのご活躍をお祈り申し上げます

 笹森 羽禾

***

「意味わかんねっ、……何だよ、これ」

 手紙に添えられていた鍵は、羽禾に手渡したその物で。
 それらが意味しているのが『別れ』だということくらい、瑛弦でも分かる。

 瑛弦はすぐさまスマホで羽禾に電話をかけるが、『おかけになった電話は…』とアナウンスが流れ繋がらない。
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