俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う


 イギリスに帰国した瑛弦は、羽禾が住んでいるアパートを訪ねた。

「司波くん…」
「羽禾は?電話が繋がらないんだけど」
「……羽禾ちゃんは日本に帰国したの」
「いつ戻ってくんの?」
「……もう戻って来ないわ」
「どういう意味?」
「局を退職したの」
「……え?」
「一身上の都合で仕事を辞めて、日本に帰ったのよ」
「………」

 アパートにいた令子を問い詰める瑛弦。
 何も聞かされていない瑛弦は、令子の言っていることが何一つ理解できない。

「一身上の都合って?」
「詳しくは分からないの。何度聞いても教えて貰えなくて」
「じゃあ、辞めるって分かった時点で、何で俺に教えてくれなかったんだよ」
「……羽禾ちゃんに口止めされてたから」
「何だよっ、それ…」

 別れたい素振りも、退職することも、何一つ聞かされていなかった。
 何度思い返しても、それらしい素振りなんて一度も見せたことがなかったのに。

「西野さんの連絡先教えて」
「え」
「いいから今すぐ教えろ」

 瑛弦がレース以外でここまでキレたことがない。
『本気にならない男』が、マジギレしている。



「はい、西野です」
「司波ですけど」
「………あぁ、こんにちは」
「俺から電話が来るのが分かってたみたいなリアクションだな」
「……どういう意味かな?」
「あいつの上司なんだから、退職理由知ってんだろ?」
「電話では話せないな」
「今どこにいるんだよ」
「フランスにいるけど、もしかして来るつもり?」
「ホテルの地図送れ。今日中にそっち行くから首洗って待ってろ」
< 153 / 180 >

この作品をシェア

pagetop