人魚の鼓動はあなたに捧ぐ
「この地鳴りって、なんですか……?」
「……俺の、心臓の音だよ」
……返事に困る。
「……笑えない、冗談……?」
「冗談が下手で悪かったな」
申し訳ないが、本当に下手だ。
あの地鳴りは、地震とは少し違う気がする。
それに、昨日も同じことがあったのが気になる。
けれど、一番わたしが気になるのは。
「あの、わたしって、首を怪我してませんでした?」
昨日のあれが、夢か現実かということだ。
「……さあ。お前を連れてきたのはサエキだ」
「サエキって……」
「さっきの変人」
白衣に眼鏡の、男の人のことだろう。
変人というなら、どっちかというと目の前の青年の方が当てはまるような気がする。
「……そのサエキが、そろそろ戻ってきそうだな。俺は行くよ。またな」
表情は変えないが心底嫌そうにため息をついて、青年はわたしに軽く手を振った。
「あっ、あの、名前!」
「……忘れた?」
「ごっ、ごめんなさい……」
そうやって言うということは、わたしたちはやっぱり知り合いなのだろうか。
「今のも冗談だよ。知らなくて当然。俺は、ウロ」
「ウロ……さん」
聞き慣れない響きの名前だ。
「覚えなくてもいい。それと、さんとかもいいし、敬語もうざったいからやめてくれ」
そう言われても、わたしからすれば初対面に変わりないのに突然呼び捨てにするのも気が引ける。
「それと──あんまりサエキを信じるなよ」