シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました

知りたくなかった事実

 翌⽇、覚悟を決めて藤河邸に着くと、意外にもロマンスグレーの紳⼠が出迎えてくれて、拍子抜けする。
 颯⽃をそのまま歳を重ねたような⾵貌にすぐ誰だかわかった。

「藤河社⻑でしょうか? お世話になっております。私、Green Showerの――」
「あぁ、貴和⼦から聞いてるよ。いつも⽞関を綺麗にしてくれてありがとう。今⽇、貴和⼦は熱を出して寝ていてね。颯⽃は朝からトラブル対応で出かけてるし」

 ⼀花が⾃⼰紹介をしようとしたら、彼が遮った。
 丁寧だけど、業者には興味はないというそっけなさだ。
 颯斗が不在と聞いて、安堵と落胆の両方の気持ちが生まれ、複雑だ。
 それに貴和子は身体が弱いと聞いていたので、心配になる。

「熱!? 奥様は⼤丈夫なんですか?」
「問題ない。昨⽇はしゃぎすぎたんだろう。そういえば、パーティーでは颯⽃が世話になったな。おかげで、あのやっかいな令嬢をようやく排除できるよ。ありがとう」

 今度の礼には⼼がこもっていた。
 よほど彼⼥に悩まされていたようで、藤河社長は顔をほころばせる。
 笑うとよりいっそう颯斗に似ていて、一花の胸がじくじくと痛んだ。

「⼤事な取引先だから、無碍にもできなかったが、あれだけ派⼿なことをしでかしてくれたから⾔い逃れもできん。助かったよ」
「お役に⽴てて、光栄です」

 にこりと微笑みを返した⼀花だったが、その後に独り⾔のように付け⾜された⾔葉に笑顔がこわばった。
< 50 / 83 >

この作品をシェア

pagetop