シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
「師匠、どうぞ」
「ありがとうございます。いただきもののクッキーがあるので、開けましょう」

 小木野は戸棚からオシャレなクッキー缶を取り出した。
 食べたばかりだというのに、一花の瞳が輝く。
 それを見て、小木野はくすくすと笑った。

「あなたは本当に甘いものがお好きですね」
「だって、美味しいんですもの」

 食いしん坊だということはとっくにばれているけど、やはり気恥ずかしくて顔を赤らめつつも、一花は拗ねた声で言った。
 そんな彼女に小木野は甘いまなざしを向ける。

「クッキーがあってよかったです。またその笑顔を見られた。私はそんなあなたを見るたびに、いつも好きだなぁと思うんです」
 
 彼の罪作りな言葉に、一花の心臓が跳ねた。

(もう、師匠ってば、誤解を招く言いかたは止めてほしいわ。私が喜んでるのを見るのが好きってことよね?)

 涼しい顔をして紅茶を飲んでいる小木野を見て、やはり大した意味はなさそうだと判断する。
 自分だったからよかったものの、真に受けて彼に恋してしまう女性は多いだろうと思って、一花はやれやれと肩をすくめた。
 紅茶とクッキーをお供にしながら、打ち合わせの続きをする。
 師匠の装花のデザインは自分にはない発想が満載で、明日これを作るのが楽しみでワクワクしてしまう。
 事務所を辞して、帰宅した一花は軽い夕食をとると、シャワーを浴び、早めに寝ることにした。
 明朝は五時に師匠が彼女を車でピックアップしてくれることになっているのだ。
 目をつぶると、今まで頭の片隅に追いやっていた颯斗のことが浮かんできてしまう。

(どうしてあんなに話したがってたんだろう? 結婚相手がいる前で)

 彼の必死な顔を思い出すと、心が疼く。
 もしかすると急に連絡が取れなくなったから執着しているのかもしれない。
 きっと彼は拒否された経験などないのだろう。
 
(でも、そのうち私のことなんか忘れるわ……)

 そうなってほしいと願っているはずなのに、胸は切なく痛む。
 鬱々した考えが頭から離れず、せっかく早くベッドに横になったのに、なかなか寝つけなかった。
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