シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました
「今日はお疲れ様でした。おかげで助かりました」
「こちらこそ、勉強になりました。ありがとうございました」

 作業が終わって、小木野の車に戻ったところで、謝礼を渡された。
 最初、師匠の手伝いにお金をもらうなんてと辞退しようとしたが、「あなたはプロなんですから無償で仕事をしてはいけません」と諭された。それ以来、すなおに受け取るようにしている。

「なにか食べて帰りませんか? お腹が空きました」
「朝早かったですもんね。ただ胃に優しいものだとうれしいです」
「じゃあ、そばはどうですか? 近くに美味しい店があるんです」
「いいですね!」

 気分にぴったりのものを提案されて一花が弾んだ声を出しうなずくと、小木野は車をスタートさせ、そば屋に連れていってくれた。
 お昼には少し早い時間だったので、店も混む前で、二人はすんなり入ることができる。

「あ、鴨がある!」

 あっさりしたものを食べたいと思っていたはずなのに、メニューに鴨南蛮そばを発見して一花は気を変える。
 鴨が大好物なのだ。
 小木野は天ぷらそばにするようで、オーダーしてくれた。
 
「今日のフラワーゲートですが、思ったより作業時間がかかりましたね……」
「ぎりぎりでしたけど、時間内に終わってよかったです」

 料理を待つ間、二人で反省会をする。
 手順やら搬入方法やらスタッフの人数やら、イベントに想定外のことは付き物ではあるが防げるものもある。
 それを検証して次回に生かすのだ。

「まだまだ私も見込みが甘いと反省しました。あなたを始め、作業の早いスタッフだったのが幸いでした」
「自分で言うのもなんですけど、人選を含めて師匠の采配がよかったのでは?」

 師匠が甘かったら自分はどうなってしまうのかと思った一花は首を横に振った。
 結局間に合ったし出来栄えはすばらしかったので、いいではないかと思う。
 小木野は笑って肯定する。

「そうですね。あなたを選んだ自分を褒めましょう」

 甘いまなざしで言われると別の意味に聞こえて、鼓動が速くなってしまった。
 でも、すぐに颯斗には選ばれなかったと考え、すっと頭が冷えた。
 そんなことを話しているうちにそばが来る。

「この鴨、美味しいです。脂が甘くて変な臭みもなくて。出汁の味も好みです」
「それはよかった。ここは天ぷらも美味しいので、次に来たらぜひ頼んでください」
「近くだったら通うのに」

 残念に思いながらもしっかり店名をチェックして、近くに来たら寄ってみようと思った。
 温かいそばのおかげで、汗をかいて冷えた身体がぽかぽかになって一花たちは車に戻った。
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