シャンパンをかけられたら、御曹司の溺愛がはじまりました

告白

「もう七時ですね。急いで食事の支度をします」

 時計を見た小木野が慌てたように作業を止めた。
 少し前に米を研ぎに行って炊飯の準備をしていたので、ご飯の炊ける匂いがしてきて、夕食の時間だと気がついたのだ。
 
「私も手伝います」
「それでは、ニンジンの皮を剥いてもらえますか? 私はジャガイモを剥きます」
「わかりました。なにを作るんですか?」
「今日は肉じゃがにしようと思って、材料を用意してたのです。それでいいですか?」
「もちろんです。でも私、肉じゃが作るの下手なんですよね。なかなか味が染みないし、ホクホクにならないし」

 一花たちはキッチンで並んで手を動かしながら話す。
 手料理を振舞うと言うだけあって、小木野の手際はよかった。

「私が最近見つけたレシピだと、無水調理でジャガイモが驚くほどほっくりするんです」
「それは楽しみです」

 小木野は棚から鍋ではなくフライパンを出し、たまねぎを炒め始めた。
 そこにニンジン、ジャガイモを投入して軽く炒めたら、白滝を敷き詰めて、その上に野菜を被せる。さらに上に肉を広げた。

「白滝に触れると肉が硬くなるから、こうするといいそうなんです」
「へぇ、知りませんでした」

 調味料を回しかけ、蓋をして、煮ていく。
 煮えるのを待つ間に小木野はささっと味噌汁とカブの甘酢和えを作った。
 できた料理を皿に取り分け、テーブルに並べる。
 センスのいい師匠の部屋は皿さえも素敵で、美しく盛りつけられた料理は雑誌に出てきそうだった。

「いただきます」

 手を合わせたあと、一花はさっそく肉じゃがに箸を伸ばす。
 見るからにホクホクしているジャガイモは味が染みていて、とても美味しい。

「絶品ですね。師匠、いいお嫁さんになれますよ」
「ありがとうございます。じゃあ、娶ってくれますか?」
「まだ師匠を養う甲斐性はないので」
「ははっ、それは残念です」

 そんな軽口を交わしながら、なごやかに食事する。
 一花は小木野といるときはいつも自然体でいられて、とても楽だ。もっと気を遣わないといけないという話もあるが。

「そういえば、次の金曜日にまたイベント仕事があるのですが、時間があったら手伝ってもらえませんか? 午後からなのですが」
「今週の金曜ですか?」

 そう聞きながら、一花はスケジュールを思い浮かべた。
 金曜日は朝一件仕事が入っているだけだ。
 予定をなるべく埋めたい彼女は勇んで引き受けた。

「午後からなら行けます!」
「それはよかった。後ほど詳細をメールしますね」
「ありがとうございます」

 小野木はうれしそうに微笑み、一花も余計なことを考える時間がこれで減ったと喜んだ。

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