父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています
「CT検査で胃の中に三個と食道に一個、白い影を確認した。白い影は餅で間違いない。餅は溶けたり伸びたりするイメージがあると思うが固くなる」

 そりゃあ人間も喉に詰まるわけだわ。

「問診も考慮して餅による食餌性腹膜炎と診断した」
 これは受診時にほぼ診断が可能だから疑いなく確実。

「腹膜炎は軽症で炎症もないよ。胃痛と腹痛の鎮痛剤と消化不良を改善するお薬を二日分出すから様子を見て」

「祐希くん、ありがとう。安心した」
 礼儀正しく頭を下げる四季浜さんは守ってあげたくなるような可愛らしい人。
「大丈夫だよ、泣くことない」

 支払いを済ませ、戸根院長が四季浜さんの頭上に軽々としなやかな腕を伸ばし、入り口のドアを開けてあげた。

「今日は時間外で来てしまって皆様遅くまですみませんでした。助かりました、ありがとうございます。またよろしくお願いします」

「ひとりで四つも餅を食うなよ、唯夏も食いしん坊だな。餅は消化が悪いから人間でも消化不良で胃痛腹痛で胃潰瘍になったりする」 

「私ひとりじゃない、彼氏と......」
 彼氏となのに四季浜さんの顔は嬉しそうじゃない。

 それより戸根院長はいつもは鼻柱ひとつ動かしもしないのに首を傾げて目が泳いだ。
 動揺していますって言っているようなもの。

「だよな、唯夏は少食だ。ひとりじゃ四つも食べられないよな」
 唯夏さんのことはなんでも知っているみたいなことを言う。

 居たたまれなくなって梨奈ちゃんを見たら、彼女もバツが悪そうに私の方を見ている。

「寒いから車で送ろうかと思ったが彼氏に誤解されたら悪いな、気を付けて帰れよ」

 彼女の私は元カノを車で送る彼氏の行動を怒らないとでも思っている?

「お疲れ様です」
「川見、お疲れ、遅くまで悪かったな。あがってい良いよ」
「お先にあがらせていただきます」
 何食わぬ顔で梨奈ちゃんに話し掛けている。

「梨奈ちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様です」
 振り向く梨奈ちゃんに合図を送ったら小さく敬礼して出て行った。よし、今夜も出動だ。

「お疲れ様です、戸根院長が投薬にて保存治療に落とし込んだ根拠は?」
 
「手術適応の有無を観察しつつも、鎮痙剤のブスコパンや消化酵素剤の使用で保存的治療が出来る症例があると考えられたからだ」

「私も保存的治療で軽快した餅による食餌性腹膜炎症例を経験しています。今までの症例では時間経過で改善しました」
 
「アリスは改善するという俺と伊乃里の見立てに間違いはない」
 
「私も戸根院長と同じ保存治療をおこなうことを選びます」
 二日後は徐々に回復していると思う。

「四季浜さん、私と違って守ってあげたくなるような可愛らしい方ですね」

「鎌をかけて、あれこれ勘繰るな。唯夏とは終わったんだ」
 自分に言い聞かせるみたいな言い方で遠くを見る目が寂しそう。
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