父性本能を刺激したようで最上級の愛で院長に守られています
「別に私はそこまで考えていませんでした」
 戸根院長らしく細かいことを気にして神経質になっているな。

「今、私と居たいですか? それともひとりがいいですか?」
 
 鼻先に人差し指をあてて擦っている。考え事をしているときの戸根院長の癖。

 考えなきゃ答えが浮かばないのか。すぐに答えられないんだね、私と居たいって。

「帰ります、お先に失礼します、また明日」

 ドアを開けると背後から「今日もプレゼントしたものを身に付けて来てくれてありがとう、嬉しかった、似合っていた」って戸根院長の声がした。

 ちゃんと見てくれていたんだ。
「ありがとうございます」

「あれから二週間が過ぎた。多忙で叶っていないが今度は誰にも邪魔されずに伊乃里を抱きたい」

「本当に? 心の迷いとか動揺とか寂しいからとか思い違いとかはないですか」
「らしくない」

「らしくないってなに? 私、その言葉がいちばん大っ嫌い。戸根院長のイメージする私でいなきゃダメなんですか?」

 私のなにが分かるっていうのよ。

「私がいつでもなんでも割り切ってポジティブでサバサバしていられるとでも思っているんですか?」

 私の中身をもっと見て、心を読んで感じて。普段は細かいくせに人の気持ちを読むのは鈍感なの?

「不安になったり臆病になったりするとても怖がりな女です。戸根院長の型にはまらない、らしくない女ですみませんね」
 
「トゲのある言葉でそんなに怒ることか。そういう意味で言ったんじゃないって分かっているだろう」

「ちょっと過剰に反応しすぎたかも。怖いんです、元サヤに戻って戸根院長を失うことを考えたら」
 歩み寄って来た戸根院長に抱きしめられた。

「唯夏のことか。バカ言うな、伊乃里が俺を失う? そんなことがあるか」
 しなやかな中指は私の顎先に触れてキスをしてきた。

「戸根院長の心は私にしっかりと向き合っていますか?」
「なぜ?」
 分からないの? 向き合っていると答えてよ。

 抱きしめられている戸根院長の腕を軽く振りほどいた。

「私だけを見ていますか? 雑念が生じて没頭出来ていなかったですよね、キスに。集中しているときの戸根院長の表情も目も私は知ってるし感じてる」

 焼きもちが加速して自分でも制御出来なくなってしまった。

「この間の初めてのキスは気持ちが入っていて、とろけそうなほど甘かったです。でも今のはぜんぜん甘くない、キスが心ここにあらずでした」

 好きだったのにお互いが多忙で泣くなく別れた二人が、お互いの仕事が落ち着いたときによりを戻すんじゃないかって考えたらどうにかなりそう。
 
「責めてばかりで俺の話なんか聞こうともしない。伊乃里のことがよく分からない、ひとりにしてくれ」
 
 返事のしるしに頷き、踵を返して出て行った。

 あの二週間前の出来事は浮かれて浮き足立っていたのかもしれない。少し冷静にならなきゃいけないのかも。
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