七回目の、愛の約束
『いやいやいや…千景、スペイン語話せるの?』
『?、ああ。ある程度の本読んで、発音を学び、現地の人の言葉を聞けば、ある程度はマスターできるから……父さんの仕事を手伝う以上、それくらいはしておかないと』
……片割れが何を言っているのか、理解できない。そりゃ勿論、仕事に対してはそれくらいの情熱が理想とされるかもしれないが、英語で限界すぎて逃げ出した千陽には本当に理解できなかった。
『人それぞれ。得意不得意だよ、千陽』
千陽の心の声を読んだのか、千景は笑う。
千景が笑うのは珍しく、彼が素直に感情を表現出来たことを喜ぶべきだと思うのに、笑われている理由が情けなくて、ちょっと嫌だ。
『それに千陽がいるから、俺は橘の為に道を拓ける。四季の家に何かあった時のためとはいえ、同時に仕事を終わらせるのは難しい』
使用人に父を託し、千景は続ける。
『千陽がいなければ、難しい案件だって沢山あったんだから、そんな顔をしないでくれ。それに、お前、俺が不得手なことは得意だろ』
『それはそうだけども』
『適材適所だよ。な? 』
優しくて、人の感情の機微を取り零さないよう、理解するために大切にする片割れが、ずっと想って止まぬ人。大切な初恋。
それを応援してやりたい反面、変な横槍入れるのもな〜とか思いながら、手を貸して、成立した契約結婚。
(期限は5年間。いや、流石に5年もあれば、いくらあの千景だって─……)
「─ねぇねぇ、はるにい、かげにいはいないの?」
考え事をしていると、千彩が千陽の胸に寄りかかりながら聞いてきた。
「千景……かげにいはね、千彩のお義姉ちゃんになってくれる人に会いに行ってるよ」
「え、お姉ちゃん!?」
「うん。楽しみだねぇ」
「うん!……えへへ」
5年間という時間制限付きだが、5年後はこの子も10歳になっている。
説明すれば、ある程度は理解してくれる年齢だろうし、そんな千景の初恋がダメだった時のことなんて縁起悪くて考えたくない。
その時はその時考えれば良いやと思いながら、千彩の頭を撫で、千陽は部屋から出た。
「千彩、今から俺は母さんのいるお庭に行くけど、千彩はどうする?」
「行く!」
「うん、じゃあ、一緒に行こう」
廊下をしばらく歩いていると、抱っこしていた千彩が自分で歩くと言うので、降ろした。
千彩はお気に入りの白いワンピースの裾を持ってクルクル回り、伸ばした長い髪が千彩の動きに合わせて踊る度、周囲にいた使用人達の目を攫う。