七回目の、愛の約束
(好きなものを好きだと言うのは、とても勇気がいるけど、それは否定されるべきことじゃない)
その対象は何でも良くて、何を愛しても、それは個人の自由でしかなくて。
今は父さんに深く愛されて、ほわほわふわふわの擬音が似合いそうなほどに、子供っぽい母さん。
そんな母さんと父さんは、四季の家の中でも語られるくらいの大恋愛結婚だった。
正確に言えば、母さんに一目惚れしていた父さんが母さんを攫ったとでも言おうか。
父さんは深い愛を母さんに誓い、母さんはそれを受け入れた。同時に、母さんを傷つける全てを排除することに余念が無い父さんは、嫁いだばかりの頃、母さんの苦しみに常に寄り添い、抱き締めて、話を聞いたという。
父さん曰く、『知らないところで最愛の人を傷つけられている事実は勿論、失う未来を思えば、何も怖くない』とのことらしく、最初は家よりも母さんを優先しようとして、周囲とはかなり揉めたと聞いている。
四季の家は歴史が長く、規模が大きい分、生み出される闇も深く、大きい。
その闇は今も変わらず、四季の家の中で渦巻き続け、人々を闇へと誘う。
母さんはそんな闇の中で生まれ、お人形のように生きていた。
詳細は何も教えて貰えていないが、父さんと母さんの間では色々なことがあり、千景も千陽も2人に守られてきたのだと理解している。
『大切なものを大切と言えるだけで良いんだよ』
幼い頃から、父さんは俺たちにそう言った。
母と父は、俺たちの自由を大切にしてくれた。
家の為とか、家の未来がとか、今生きる俺達には関係無いのだと、そう言って、父さんは笑った。
婚姻すらも自由にしていいのだと、自由に選ぶべきなのだと言ってくれた両親に、正直、千景の契約結婚のことがバレるのはとてもまずい。
(間違いなく、怒られる)
それはそれで後で朱音たちと話を合わせておかなければな……と思いながら、エントランスホールに繋がるサーキュラー階段を降りる。
その下には準備の良い複数人の使用人が控えていて、千彩がゆっくりと自分の足で降りてくる姿を見守りながら、微笑んでいる。
千陽も念の為、千彩のそばに控えながら、小さな子の頑張りを眺めていると、何とも言えない気持ちになる。
(歳が離れているせいで、本当にめちゃくちゃ可愛いんだよなぁ……)
まぁ、自分の子供でもまかり通る年齢差なので仕方がないかもしれないが。
「─っ、ついた!」
時間はかかったけど、たどり着いた千彩。
にっこにこで見上げてくる千彩は可愛くて、千陽は頭を撫でる。
「よく出来ました」
「えへへ」
子どもにはかなり酷な階段だから、基本は使用人や家族が抱っこしているが、最近、千彩は自分でやりたい欲がすごいらしく、現在の橘家は千彩の成長見守り期。