七回目の、愛の約束
「千彩さま、失礼しますね」
使用人のひとりが千彩のそばにしゃがみこんで、千彩に帽子を被せる。
勿論、ワンピースに合わせて、父さんがプレゼントした可愛い子供用のツバあり日よけ帽子。
「ありがとぉ!」
「どう致しまして。よくお似合いですよ」
嬉しそうな千彩に、癒されている使用人。
周囲の使用人も千彩にメロメロだし、流石、父さんの右腕が面接した使用人達だなと思っていると、大きめの日傘を差し出されて。
「ありがとう、助かる」
「行ってらっしゃいませ」
流石にあの距離で会話したら、今から千陽たちが庭に向かうのは周知されているらしい。
お茶菓子の準備まで調っているのが視界の端に映り、千彩に教えると、千彩は顔を輝かせた。
「千彩さまがお好きなお菓子も、もちろん、ご準備していますからね」
嬉しそうな千彩はまた使用人達にお礼とお辞儀をして、
「はるにい、はやく!」
使用人が開けてくれた扉から飛び出していく。
「千彩!階段に気をつけて!」
「は〜い!」
足取り軽くて、自由で、帽子押さえて走る姿とか、とりあえず可愛くて仕方ない。
「─追いかけますね」
とりあえず、千彩の写真を一枚撮っておく。
すると、近くにいた使用人のひとり─梓(アズサ)が千彩の後を追って、走っていった。
「─あら。それは旦那様用ですか?」
千陽が追いかければよかったのに、わざわざ申し訳ないことをした。
早く後を追おうと思いながら、傘を開くと。
「そうだよ〜父さんの分」
横から話しかけてきたのは、今、父さんのそばでいつもどおり仕事をしながら、父さんを見張っているだろう右腕─有能な執事兼秘書の春彦(ハルヒコ)の妻・文乃(フミノ)だった。
代々、橘家に仕えてくれている家人であり、春彦同様、父さんとは幼なじみ関係。
さっき千彩を追いかけてくれた梓はそんなふたりの娘であり、梓の兄が、千景の秘書だ。
つまり、家族ぐるみでお世話になっている。
「慌てて追いかけなくても、梓にお任せ下さいな。私とのんびり参りましょう」
もう一人の母親のような彼女は、そう言って穏やかに笑う。役職は奥様付きなので、母さんのそばに基本いるはずだが、ここにいるということは何かを取りに来たのだろう。