七回目の、愛の約束
「文さんがそう言うのなら」
傘を一度閉じて、彼女がアンティーク調のティーワゴンを用意するのを眺める。
「千彩さまがお好きなお菓子、千陽さまも昔、好まれてよく食べていらっしゃいましたね」
「そうだっけ?」
「ええ。千陽さまは何でもお召し上がりになる一方、千景さまが偏食で……お二人共、大きくなられました」
「皆が大事に守って、育ててくれたおかげだよ。ありがとうね」
文さんをはじめとして、古株の使用人達が千陽の言葉に足を止め、優しく微笑んだ。
四季の家は国における立ち位置的にも微妙な存在で、四季の家は神様によって成り立っている家でもあるので、幼い子どもは亡くなりやすいと言われている。
実際はどうかは知らないが─恐らく、過去にあった事件の殆どは誘拐などによるものだと思われるし─千景や千陽も片手で足りないくらい誘拐されかけたのに、無事に今も生きていられるのは、優秀な彼らが身を張って守ってくれたからだ。
(四季の家の子供は、それだけで価値がある。神様の祝福を有していれば、余計に)
だから、特別な子は閉じ込められる。
四季の家のために生まれ、四季の家のために使われる。─そこに、人権などはない。
近年の春夏秋冬の宗家当主たちの意向で、そういう変な慣例は無くそうとなっているが、そんな春夏秋冬の家の頂点とも言える四ノ宮家(始祖神の子孫とされている)の先代当主が、稀代のクソ野郎だったため、完全にその風習は廃れていない。
それを廃れさせるのが、千景の覚悟だ。
隠されているから、実情は分からない。
でも、新しい四ノ宮家当主とならば、それもできる気がすると、あいつは笑っていた。
(あいつ、俺に内緒にしてることがあるんだよな……半身の俺にくらい、吐き出したらいいのに)
「─お待たせしました」
「ううん、準備ありがとう」
日傘を差して、外に飛び出す。
陽気で、暖かな良い天気。
そんな日に日傘無しで外に出られないのが残念だが、千陽の肌は他人より弱くて、荒れやすいので仕方がない。
母さんが育てている花園を眺めながら、のんびりと庭園の道を歩いていくと、遠くのガゼボから笑い声がする。
母さんとお客人と梓と……千彩は母さんの膝の上で、にっこにこ笑ってる。
可愛いので、とりあえず写真を撮る。
横座りだから、母さんに抱きつきたい時に抱きついたりもしていて、賢い。可愛い。
何枚か撮って、お菓子を頬張る姿も撮って。
大きいカップでお茶を飲む姿も撮って。
頭撫でられて喜ぶ姿、擽ったそうな姿。
母さんに後ろから抱きしめられて、嬉しそうな姿。二人で楽しそうな姿。
─何枚撮ったか分からないが、今撮った全てをとある人物に送る。いつもの流れである。
「あっ、はるにい!」
千彩が気付いた。文さんが持ってきてくれたティーワゴンを指さして、千彩を手招く。
千彩は母さんの膝から降りると、一直線。
可愛いので、それも写真を撮った。
すると。 ─ピロン♪…………即レスである。
仕事で発揮して欲しい速さだなと呆れつつ、トークを開くと、さっき送った写真にただ一言。
『あと100枚以上撮って送りなさい』
─この人は、仕事をしているのだろうか。
いや、そもそも、そんなに撮ってどうする気なのだろうか。
ただえさえ、父さんの部屋は家族の写真ばかりだというのに。
(考えても無駄か……)
恐らく、あの人が置く場所がないと思い出したら、家族の写真館とか建て出すだろう。
そのとき、全力阻止すれば良い話だ。
幸い、脅す時に使えるものは多めにある。
千陽がため息をつくと、梓が近寄ってきて。