七回目の、愛の約束
「春彦に任せれば、大丈夫ですよ」
察しているのか、そう言って笑う梓。
仕事中は絶対、父親扱いしない彼女は公私混同はしない派らしい。あの二人の娘らしい。
「まぁ、春彦さんに任せればどうにかなるか…」
父さんを敬いつつ、二人きりの場ではハッキリと物を言う人のため、いつもタジタジな父さん。
兄のように慕っていた彼に怒られるのは堪えるらしく、春彦さんはそれを理解した上で上手く父さんを手のひらの上で転がしてくれているから、助かる。
「そうですそうです。ほら、お茶にしましょう。奥様がお待ちですよ」
「あ、うん」
ガゼボの下、用意されたお茶の席へ向かう。
「はるにい、抱っこー」
「はいはい。おいで」
お菓子を必死持つ千彩を膝の上に抱き上げて、落ちないように腰らへんを抱き締める。
すると、目の前にいた女性が笑う。
「美味しい?千彩くん」
「うんっ!美味しい!」
「良かった〜」
彼女の名前は、桔梗星依(キキョウ セイ)。
秋の家当主の姉であり、母さんのお茶友達だ。
「久しぶり、はる」
「うん。久しぶり。元気だった?星依」
「ぼちぼち……凛が守ってくれるから」
そう言うわりには、疲れた顔をしている。
彼女の今にも消えそうなくらい儚げな容姿は、父親譲り。行方不明になった彼女の父親もまた、儚げな雰囲気を纏った人で、浮世離れしていた。
「でも、星依、顔色悪いよ」
手を伸ばして、優しく目元を撫でると、彼女は擽ったそうに身を捩る。
「ちょっとね、最近色々あって……凛には、あの子はあの子で大変だし、あまり迷惑をかけたくないんだけど、ストーカーみたいなのが酷いんだ。ここに来れば、春の皆さんが守ってくれるから、最近、よくお邪魔しちゃう」
へらっと笑うが、かなりのストレスがかかっているのだろう。弱々しい笑顔が痛々しくて、
「星依、暫く、うちに居たら?部屋は余ってるし、凛は怒りそうだけど、星依が凛に迷惑をかけたくないと思っているなら……」
「有難いけど、そんな御迷惑を掛けられないよ。ただえさえ頻繁にお邪魔して、美味しいお菓子とか頂いてるのに……」
「あら、何言ってるの。星依ちゃん、貴女は邪魔なんかじゃないわ。大切な姉さんの、大切な娘だもの。私にとっては、大切でとっても可愛い姪。叔母さんの元を頻繁に訪ねるなんて、別におかしなことじゃないわ?ハルちゃんの言う通り、暫く、ここにいなさいな」
自嘲するように笑った星依の頬に触れ、母さんが微笑みかける。その有無を言わさぬ微笑みは、普段からふわふわほわほわした人とは思えないくらいの圧で、明らかに星依も断れない空気。