七回目の、愛の約束
(あ、この感じ、かなり怒ってるな……)
母さんは基本、家のことに口を出さない。
お人形として育ち、腹違いの姉(星依の母親)に守られてきた母さんは、自分が口を挟むのは間違っていると考えているらしい。
それでも、星依の顔色やその口から語られた内容は無視できるものじゃなかったのか。
流石の千彩も空気で察し、
「だいじょうぶよ、せいちゃん!」
にこにこと笑いかけて、
「千彩くん?」
「だいじょうぶ!」
星依を笑わせる。
「ん、良い子」
「?、えへへ」
空気を読んだようで、結局は何も分かってないみたいだが、とりあえず、めちゃくちゃに千彩の頭を撫でておく。
嬉しそうな千彩を見て、また、星依が微笑む。
(この感じだと、母さんから間違いなく、父さんの方へと連絡がいくだろうな……)
父さんの仕事が増える未来はほぼ確定なので、暫くは父さんのために家族写真を撮りまくっておこうと、千陽は仕事中の父を想う。
冬の家・柊家が崩壊して、しばらく。
次に崩壊するのは秋の家で、既に内部は腐り始めているとは噂で聞いていたが、星依がここまでになるほど、あの家は腐っていただろうか。
「……私、凛みたいに強くないんだけどな」
小さな声で、星依がそう呟いた。
星依は小さい頃から、凛が自分自身を守ることに申し訳なさがあるらしい。
両親亡き後、信用できる大人が居ない中、このふたりはよくやっていると思ってはいるが、今現在、凛はまだ21歳。
星依も思うところがあるのは当然だろう。
「早く、お嫁に行ければ……」
だからこそ、星依は早く嫁ぎたがっている。
家から出ていきたくて、それ以外、自分自身に価値は無いと言わんばかりに。
「星依ちゃん、そんなことをしたら、凛くんは怒ると思うわよ」
「でも……」
「大丈夫だから。叔母さん達に任せて?心の底から好きになって、ずっと一緒にいたいと思える相手と、私は幸せになって欲しい。姉さんもきっと、天国でそう思ってるわ。だからね」
母さんは優しい声で話しながら、星依の頭を撫でる。すると、星依は静かに泣き始めた。
─どれ程の怖さだろう。安心できない日々は、どれだけ彼らの心を侵食して。
凛だって言葉遣いや立ち振る舞い、知識や持ち前の能力などは大人顔負けだが、まだまだ守られていてもおかしくない年齢だ。
本人は成人しているから、と言うが、高校入学前くらいからずっと、凛はひとりで家を支えて、強く、当主として立っている。
だからこそ、凛の覚悟を受けて、俺達は全員、凛に気を遣ったりしていない。それは逆に、凛を侮辱することになると知っているからだ。
(ああ、でも、考えてみれば)
母さんの腕の中で、涙を止められなくなった星依の頭を撫でながら、考える。
(─今はある意味、チャンス、なのかも)