朱の悪魔×お嬢様
「何故、あの時私を殺さなかったの?」

 凜はもう一度問う。

 すると紅い悪魔は口元を歪め、またクスクスと笑い出した。

「貴女様を殺せるはずがありませんよ」

 ニコリと微笑む。

 否

 目は全く笑っていなかった。

 その返答に混乱する凜。


 何故私を殺さない?

 何故私を殺せない?


 疑問が浮かぶばかりである。

 ゆっくりと凜に向き直ると、血で濡れた手を胸にあてる。

「我が名はレライエ」

「え?」

「貴女様の名前は?」

「…羽須美、凜」

 質問の意図が分からない。

 紅い悪魔―――レライエは凜に更に一歩歩み寄る。

 いつの間にか口元に浮かべていた笑みを消していた。

 急になんとも言えぬ恐怖が凜の感情を襲う。

 レライエは新たにナイフを取り出すと凜の手を掴み、引き寄せる。

 凜は動けなかった。

 すると突然掌にズキリと痛みが走る。

 見ると、掌に十字の傷。

 切れた皮膚から血が流れ出し手首を伝い落ちる。

 切られたのだ、と理解する前にレライエが流れる凜の血を―――飲んでいた。

 レライエの背中、朱色の淡く光を放っていた翼が一瞬、輝きを増したように見えた。


 歓喜


 レライエはペロリと唇を舐めると恍惚とした表情をその顔に浮かべる。

 凜はカタカタと震えていた。

 一歩後ずさる。

 レライエは素直に凜の手を離した。

 そしてすぐに凜の足元に跪く。

「我、レライエは―――この時より、この血が示す、羽須美凜に忠誠を誓おう」

「な、にを言ってるの…?」
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