剛腕SATな旦那様は身ごもり妻を猛愛で甘やかす~利害一致婚のはずですが~

「むしろ好都合だろう。警察官なら給料もいいんじゃないか? こんないいマンションに暮らしてるなら、少しだけくすねて……」

 父の言葉を聞いて、絶望で目の前が真っ暗になる。
 ひとり娘が結婚しても、財布が増えた程度にしか思われていない。
 昔のように戻れないことが決定的になり、真綾の中でなにかが音を立てて崩れていった。

「帰って。もう帰ってよ!」

 真綾は涙ぐみながら声を荒らげ、父を追い返そうと背中を押した。

「帰ってほしいなら渡すものがあるんじゃないのか?」

 真綾は悔しさのあまり奥歯を噛み締めながら、バッグから財布を取り出した。
 一万円札を二枚抜き、父の手に押し付ける。
 金を渡すと途端に愛想がよくなった。

「また来るよ、真綾」

 父はヘラヘラと笑いながら、お札をポケットにしまった。
 一度で済ませる気はないと言わんばかりの態度に、絶望がまた深くなる。
 足もとがおぼつかないまま、エントランスを抜け、エレベーターに乗り込む。

(疲れた)

 どっと疲れが押し寄せてきて、帰宅するなりソファにもたれかかってしまう。
 まさか、もう父に居場所を突き止められるなんて。

(いつまでこんなことが続くの?)

 警察官の鳴海と結婚しても、父は何とも思っていなかった。
 今後も定期的に金をせがむつもりだろう。

(どうしたらいいの?)

 真綾は母が亡くなった日から贖罪を背負い続けている。
 父とて、昔からあんな人だったわけではない。
 自堕落な人間に変わってしまったのは、真綾のせいだ。

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