剛腕SATな旦那様は身ごもり妻を猛愛で甘やかす~利害一致婚のはずですが~

『千種っ!』

 葬式の日は針の筵だった。
 大仰に母の死を嘆き悲しむ父のとなりで、真綾は己の感情を押し殺すように手を固く握り締めた。
 母が真綾を庇って亡くなったことは、葬式に参列した誰もが知るところだった。
 ヒソヒソと遠巻きにされるのはつらかったが、その後の生活に比べればまだマシなほうだ。

『なんであいつだったんだ!』

 母を亡くした喪失感からか、父は酒が入るといつもそう愚痴をこぼしていた。
 ――まるで生き残った真綾を責めているみたいだ。
 おおらかな母は、気分屋の父をおだて、励ますのが上手だった。
 母がいない家の中は、火が消えたように暗い。
 父は務めていた商社を辞め、昼間から酒を飲み、挙句の果てには競馬やパチンコなどのギャンブルに興じ始めた。
 変わり果てた父の様子を見ていられず、真綾は大学進学と同時に家を出た。
 学費は奨学金とアルバイトでどうにか捻出した。
 父が金をねだりに真綾のもとを訪ねてくるようになったのは大学を卒業し働きだしてから一年が経った頃だ。

『すまない。本当に困っているんだ』

 最初はただ頼られているのがうれしかった。
 父を援助することで、母を身代わりにして生き延びた罪悪感から救われたかったのかもしれない。
 しかし、父はお金を渡しても、数日後にはまた決まり文句とともに現れた。
 都合よく扱われているのだと気づいたのは、真綾自身の貯蓄が完全に底をついてからだった。
 金を渡せなくなると、父の態度はあからさまに辛辣になった。
 金の切れ目が縁の切れ目とはよく言ったものだ。
 優しかった頃の父の思い出が真綾を余計に惨めにさせる。
 こんな想いをするくらいなら、助けてもらわなくてもよかった。
 なぜあのとき、母は真綾を庇ったのだろう。
 回答者不在の不毛な問いは、いまだに宙ぶらりんのままだ。
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