屈辱なほどに 〜憎き男に一途に愛を注がれる夜〜
「そうだったのか…。それは、無理させて悪かっ――」


と言いかけた阿久津さんがわたしの腕をつかんだ。

驚いたわたしは目を丸くして振り返る。


「どうしたんだ…?これは…」


そう言って、阿久津さんが長い指でわたしの髪をすくった。

髪で隠れていた首筋には、貴斗によってつけられた痕が残されていた。


「…いえ、こ…これは…」


勝手に声が震える。

あのときの貴斗を思い出したら、無意識に涙がぽろぽろとあふれ出した。


* * *


「ようやく落ち着いたか」


ソファでうつむきながら指先で涙をはらうわたしの前に、阿久津さんはホットコーヒーが入ったマグカップを置いた。


あのあとわたしは泣きじゃくってしまい、わたしの気持ちが落ち着くまで阿久津さんは静かに見守ってくれていた。


「その様子だと、…その痕。好きでつけられたわけじゃないんだな?」
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