[慶智の王子・伊集院涼介の物語]冷酷弁護士と契約結婚
涼介はまだ帰宅していない。不安な気持ちを落ち着かせるために早速購入したディフューザーをセットする。帰ってきた涼介がリラックスできるように、そして自分自身のためにもラベンダーを選んだ。




鈴音はフラワーショップの上田が言ったことが気になっていた。


確かに会社で何回か上田が観葉植物の手入れをしているのをとお目に見たが、直接話をしたことは一度もない。


(なんで私の旧姓知っているのかな? それに会社辞めたことも。涼介さんの仕事が落ち着いたら話してみよう)




数日後、企業委託の件も一段落し、涼介は久しぶりに早く帰宅した。ゆっくりしたいところだが、書類に目を通したかってので書斎へ向かう。


しばらくして帰ってきた鈴音は、玄関にある涼介の靴に気が付き笑顔になる。


(今日は早く帰れたんだ)


エコバックとカバンをテーブルに置き、コートを脱ぎながら書斎へ足を運ぶ。書斎のドアが少し開いており、涼介の話声が聞こえる。盗み聞きするつもりはなかったが、思わず聞き入ってしまった。


「......まぁ、そんなところだよ。元々結婚なんてしたくもなかったし。いい女避けにはなっている......結婚したからにはいい夫婦演じないとな......」


涼介の言葉から、これは愛のない契約結婚という現実を再確認させられ、手から滑り落ちたコートにも気が付かず、傷ついた鈴音は静かに家を飛び出した。

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