恋愛日和 いつの日か巡り会うその日まで
「あ……お、お疲れ様です。」
『起きてたのか。』
黒く縁取られた眼鏡をかけた瀬木さんは、やはりずっと仕事をしていたのか
首を左右に回しながら私の方に来た
「何か飲まれますか?」
『あ‥‥じゃあコーヒーでもいい?」
暗がりでも分かる疲労感は凄くて、
せめてコーヒーくらい美味しく淹れてあげたかった
ソファにドサリと音を立てて座った瀬木さんにキッチンの明かりを付けてコーヒーメーカーをセットする
『あのさ……
立花はどうして本が好きなの?』
ドクン
静かで薄暗い空間で緊張が増す中、
暗闇の中から真っ直ぐこちらを見つめる瞳に少し俯く
先輩‥‥‥。図書室の本棚で初めて会えた時に同じ質問したのを覚えてる?
「どうぞ…」
ソファの背もたれに埋もれて
眠いのか瞳を閉じていた瀬木さんが
ゆっくりと目を開ける
「私‥…小さい時から本を読む環境が
あって囲まれて育ったので自然と
読む事が好きになってました。
書いた人の伝えたいことが
こうだってわかったときに、
その世界には行けないけど、そこで
生きているキャストになれるんです。
人見知りだったけど、本の世界の
中では違う自分になれるって‥‥」
『‥‥俺も同じ。』
ドクン
綺麗な瞳が少しだけ私を捉えると、
少しだけ笑った気がして顔が熱くなる。
先輩‥‥。
先輩がそう言ってたから益々
読むのが好きになったんだよ‥。
「おやすみなさい……」
頭を下げてからキッチンの電気を消した私は二階へ続く階段へ歩き始めた
『立花‥おやすみ』
たった一言聞こえただけなのに
一つひとつが胸を締め付ける‥‥。
大好きで一番遠くからでもいいからと
眺めていた素敵な先輩の存在。
自分から傷付けて離れたのに、こんな風にまた話したり、目の前で食事をする姿を見たり同じ空間で生活までしてる‥。
私はここに仕事をしに来た。
家賃も払わなくていいという誓約書に
サインもされてしまった今、ここで
瀬木さんの身の回りのことやサポートを全てやる。それが私のやるべきことだ。
例え今後、好きという気持ちが溢れても、私からは何も変えてはいけないって
分かってる‥‥
分かってはいるけれど、今だけは
彼を想って泣いてもいいですか?
忘れたくても忘れられなかった人との再会が、今になって奇跡のように感じて
私は声を殺して泣き、揺れそうだった心にしっかりと鍵をかけ直して、私は眠りについた。
『起きてたのか。』
黒く縁取られた眼鏡をかけた瀬木さんは、やはりずっと仕事をしていたのか
首を左右に回しながら私の方に来た
「何か飲まれますか?」
『あ‥‥じゃあコーヒーでもいい?」
暗がりでも分かる疲労感は凄くて、
せめてコーヒーくらい美味しく淹れてあげたかった
ソファにドサリと音を立てて座った瀬木さんにキッチンの明かりを付けてコーヒーメーカーをセットする
『あのさ……
立花はどうして本が好きなの?』
ドクン
静かで薄暗い空間で緊張が増す中、
暗闇の中から真っ直ぐこちらを見つめる瞳に少し俯く
先輩‥‥‥。図書室の本棚で初めて会えた時に同じ質問したのを覚えてる?
「どうぞ…」
ソファの背もたれに埋もれて
眠いのか瞳を閉じていた瀬木さんが
ゆっくりと目を開ける
「私‥…小さい時から本を読む環境が
あって囲まれて育ったので自然と
読む事が好きになってました。
書いた人の伝えたいことが
こうだってわかったときに、
その世界には行けないけど、そこで
生きているキャストになれるんです。
人見知りだったけど、本の世界の
中では違う自分になれるって‥‥」
『‥‥俺も同じ。』
ドクン
綺麗な瞳が少しだけ私を捉えると、
少しだけ笑った気がして顔が熱くなる。
先輩‥‥。
先輩がそう言ってたから益々
読むのが好きになったんだよ‥。
「おやすみなさい……」
頭を下げてからキッチンの電気を消した私は二階へ続く階段へ歩き始めた
『立花‥おやすみ』
たった一言聞こえただけなのに
一つひとつが胸を締め付ける‥‥。
大好きで一番遠くからでもいいからと
眺めていた素敵な先輩の存在。
自分から傷付けて離れたのに、こんな風にまた話したり、目の前で食事をする姿を見たり同じ空間で生活までしてる‥。
私はここに仕事をしに来た。
家賃も払わなくていいという誓約書に
サインもされてしまった今、ここで
瀬木さんの身の回りのことやサポートを全てやる。それが私のやるべきことだ。
例え今後、好きという気持ちが溢れても、私からは何も変えてはいけないって
分かってる‥‥
分かってはいるけれど、今だけは
彼を想って泣いてもいいですか?
忘れたくても忘れられなかった人との再会が、今になって奇跡のように感じて
私は声を殺して泣き、揺れそうだった心にしっかりと鍵をかけ直して、私は眠りについた。