恋愛日和 いつの日か巡り会うその日まで
『入っておいで?』


断られたら戻るつもりだったけれど、
そう言ってもらえて安心して静かに
ドアを開けた。


「‥‥失礼します……っ……!!
 わぁ‥‥す、すごいですね!!」


離れになっている渡り廊下の先のドアを開けた私は、まるで外にいるのではと錯覚させられる


仕切りのない大きな窓ガラスから
外の白樺の木々が並んだ美しい景色が
見えて動けないまま眺めてしまう


『フッ‥‥どうかした?』


広い空間に置かれたデスクに向かって
仕事をしていた瀬木さんが、私を見て
笑った気がする。

こんな素敵な部屋なら出たくないかも‥


「‥仕事中すいません。シーツを
 持ってきただけなんです。良ければ
 私が変えてもいいですか?」


『ん‥いいよ。助かる。』


執筆中だから邪魔をしたくないので、
窓際にあるキングサイズのベッドを
手際よくメイキングしていく。


本当にすごい眺めだな‥‥。
まるで森の真ん中にベッドが置かれて
いるみたいだ。



『そういえば歴史の本が見たいって
 言ってただろ?
 奥に沢山あるから見ていいよ。』


「えっ!!ほんとですか!?
 ありがとうございます!!」


仕事部屋の奥を指差されると、
壁の向こうに広がる何列も連なる本棚に
また口が開いてしまう


歴史どころじゃない‥‥。様々な
ジャンルの物から辞書、洋書、とにかく沢山ある‥‥。
まるでここは‥森の図書館みたいだ。


ゆっくりと通路を歩き見たこともない
本を手にとってはそこで立ち読み、
気になる本があれば座って読んだ。


こんな素敵な場所なら私は
ずっといられるかもしれない。



『フッ‥‥資料あった?』


「えっ!?あ………すいません‥‥
 珍しい本が沢山あってつい読んで
 しまって‥‥。」


本棚を背に体育座りしていた私を
上から見下ろす瀬木さんが、急に
私の隣に同じように座ってきた。


どうしよう……少し動くだけで
肩が触れてしまいそうな程距離が近い‥


「せ、瀬木さん?お仕事中だと思うん
 ですけど私がここにいて邪魔です
 よね?」


『邪魔なら部屋に招いてないよ‥。』


ドクン


私にもう少しだけ勇気があったら、あの時も逃げずにこんな風に近くにいられたのかな‥‥



『俺もさ、ここでよくこうしてた。』

えっ?
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