恋愛日和 いつの日か巡り会うその日まで

解放

『矢野！！』


6年間そう呼ばれることもなかった
懐かしい呼び名に涙が溢れる‥‥。
でも‥‥どうして今になって‥‥


涙でぐちゃぐちゃな視界。
あてもなく走ると息があがってゆく。

逃げたくないのに現実を受け入れられない‥‥どうしようもなく恐いから‥。




『ッ矢野！！』


ﾄﾞｸﾝ


私が先輩にすぐに捕まるのなんて分かってた‥‥でも、心の準備が出来てないの
‥‥だから‥‥‥‥‥


掴まえられた手首がゆっくりと後ろに
引き寄せられると、大好きな先輩の腕の中に収まり、強く抱き締められた



「瀬木さ…ッ…お願い……離し‥て」

『落ち着いて‥‥‥ね？
　大丈夫‥‥大丈夫だから。』

「ﾋｯｸ………ﾋｯ……ｳｳ‥ッ」


全然大丈夫なんかじゃない‥‥。
もうこんな風に一緒にいられなくなる
ツラさで涙が止まらないのだ


『混乱させたね‥‥。でもさっきの
　課題の答え見てもう知らないフリ
　をするのが限界だった‥‥‥』



温もりが愛しすぎて、考えれば考える程
呼吸がどんどん苦しくなり嗚咽が
止まらない‥‥


「ﾊｧ……ｯｸ…苦し‥‥ﾊｧ‥ﾊｧ‥」

『矢野？‥‥おいっ！！矢野！？』



どうしよ‥‥息が‥上手く‥できな‥‥


アシスタントの仕事も楽しくなってきて、このまま私を知らない人でいてくれたらと思った時もある


でも‥この思いは、自分が思うよりも
ずっとずっと大きくて、簡単に
壊れてしまうほど脆かった‥‥。


ごめ‥‥なさい‥‥謝らない‥と‥


「‥んッ」


意識が途切れる瞬間に口内に送り込まれる酸素に驚くものの、私は抵抗もできる
はずもなかった。


手や足も酸素不足で痺れ出しているのに、息を送り込まれているそこが一番
熱を持ち痺れていくようだ‥‥


綺麗な顔を悲しそうに歪ませ、私に何度も優しく息を送り込む姿にどうしようもなく涙が溢れる