恋愛日和 いつの日か巡り会うその日まで



『‥‥このままでいいから聞いて?』


暫くの間それが繰り返され、唇がゆっくりと離れた後、瀬木さんが私を優しく
もう一度抱きしめた


私の呼吸が落ち着くまでずっと何も言わずに背中を撫でてくれている‥‥


あとわずかな時間でもここにいられる幸せを感じてもいいのかな‥‥。やっぱり
悲しくて涙が止まらないよ‥‥。


瀬木さんは私を座らせ膝の間に抱き抱えると、白樺の木を背にもたれた。


『ごめん‥‥立花が話してくれるまで
 本当は待とうと思った。』


えっ?


『俺はさ‥‥6年前突然いなくなった
 矢野がずっと忘れられなかった。』


ドクン


『初めて図書館でその子を見た時、
 大事なものを見つけた時くらい
 嬉しそうに本を眺めていてさ‥‥。
 いつも図書館で本を読みながら
 表情をコロコロ変えてる子が気に
 なって遠くからずっと見てた。』


えっ?
…………先輩が私を‥見てた?
見てたのは私じゃなくて?


いまだに涙が溢れる目元を綺麗な指が
丁寧にそれを拭うと瀬木さんが笑った気がした


『その子とやっぱり話してみたくて
 読み終えたあの前編の本を自分から
 声をかけて渡したのを覚えてる?』


私が初めて先輩を知ることになった
出来事が頭に浮かび小さく頷くと
涙がどんどん溢れ出す。


『あの時さ‥‥真っ赤な顔をして
 嬉しそうに本を大事に胸に抱えた子
 を見てああ‥俺‥この子のことを
 好きだったんだって思った。』


えっ?‥好き………?


『‥‥やっと気持ちに気づけたのに
 いなくなる前日に言われた言葉に
 相当へこんだ‥‥』


ドクン
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