不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
「久しぶりに来たけど、やっぱり好きだなぁ」
シータウンに連れてきてもらった私は建物を見て、歓声をあげた。
海の近くの商業施設は、波のきらめきを反射して壁が揺らめいて、とても美しい。そういう計算がされて配置されているのだ。
昔はわからなかった設計上の工夫が随所に見てとれる。
私は繋いだ手を引っ張り、黒瀬さんを連れ回した。
彼は笑いながら付き合ってくれて、たまに解説を入れてくれるから、ますます見応えがある。
建物の外観を堪能した私は溜め息交じりにつぶやいた。
「少しは憧れに近づけたかな?」
まだまだ遠いなと思いながら。
でも、私に甘い彼は笑って言った。
「近づくどころか追い抜かれそうだ」
「そんなわけありません! 黒瀬さんは私の目標としてずっと突っ走ってくれなくちゃ」
「ハハッ、目標もいいが、俺は瑞希の隣にいたいな、ずっと」
急にそんなことを言われて、私は呆けた。
仕事脳から、突然、恋愛脳に切り替わって、顔が熱くなる。
この人はいきなりそんなことを言うからずるい。
「……ずっと?」
「あぁ、一生だ」
言い直されて、目を瞬き、じっと彼を見た。
(それって……?)
ひとつの言葉が思い浮かんだけど、確信がなくて、私は口ごもった。
すると、黒瀬さんがめずらしく自信なげに瞳を揺らす。
「プロポーズにはまだ早かったか?」
「ううん、早くない! うれしいです!」
「それはよかった」
破顔した彼は私を抱き寄せた。
自分の胸に私の顔を押しつけ、つぶやく。
「……断られるかと思った」
彼が安堵したように息をつくから、私は慌てて首を振った。
「そんなわけないです! 私も黒瀬さんとずっと一緒にいたい……」
ジタバタして顔を上げようとしたら、「今、情けない顔してるから見るな」と言われた。
「えー、見たいです。そんな黒瀬さんも」
そう訴えたけど、彼は私の頭を抱き込んで見せてくれなかった。
表情は見えなかったけど、頬をつけた彼の胸からはいつもより速い鼓動を感じる。
緊張していたみたいだ。
「……黒瀬さんでも、不安になったりするんですね」
「当たり前だろう。特に瑞希に関しては、自分でも驚くほど弱気になる。だから、じわじわと外堀を埋めてきたんだが。格好悪いな」
苦笑した気配がして、頭の上が重くなった。
黒瀬さんが顔を伏せてきたのだ。
(いつも余裕がありそうな人が私にはこんなふうになるなんて)
彼の本気度がわかって、喜びがふつふつと湧いてくる。
最初は軽いし女の敵だし、そのくせ設計は素晴らしくて嫌味な人だと思っていたのに、実際の黒瀬さんを知るうち、いつのまにかこんなに好きになっていた。
「ううん、黒瀬さんはいつも格好いいですよ。それに、私、愛されてますね」
「あぁ、愛してる」
ようやく通常営業に戻ったのか、黒瀬さんは私の頭を離してくれて、彼の顔が見られた。
ニッと笑う彼に、そういう言葉は照れないのねとおかしくなる。
ふたたび抱きつき、私も告げた。
「私も愛してます。一生あなたのそばにいさせて?」
「もちろんだ」
私たち二人ならきっと居心地のいい家庭もデザインできる。
そんな確信を持ちながら、私を魅了する建物とその設計者を振り仰いだ。
ーFINー
シータウンに連れてきてもらった私は建物を見て、歓声をあげた。
海の近くの商業施設は、波のきらめきを反射して壁が揺らめいて、とても美しい。そういう計算がされて配置されているのだ。
昔はわからなかった設計上の工夫が随所に見てとれる。
私は繋いだ手を引っ張り、黒瀬さんを連れ回した。
彼は笑いながら付き合ってくれて、たまに解説を入れてくれるから、ますます見応えがある。
建物の外観を堪能した私は溜め息交じりにつぶやいた。
「少しは憧れに近づけたかな?」
まだまだ遠いなと思いながら。
でも、私に甘い彼は笑って言った。
「近づくどころか追い抜かれそうだ」
「そんなわけありません! 黒瀬さんは私の目標としてずっと突っ走ってくれなくちゃ」
「ハハッ、目標もいいが、俺は瑞希の隣にいたいな、ずっと」
急にそんなことを言われて、私は呆けた。
仕事脳から、突然、恋愛脳に切り替わって、顔が熱くなる。
この人はいきなりそんなことを言うからずるい。
「……ずっと?」
「あぁ、一生だ」
言い直されて、目を瞬き、じっと彼を見た。
(それって……?)
ひとつの言葉が思い浮かんだけど、確信がなくて、私は口ごもった。
すると、黒瀬さんがめずらしく自信なげに瞳を揺らす。
「プロポーズにはまだ早かったか?」
「ううん、早くない! うれしいです!」
「それはよかった」
破顔した彼は私を抱き寄せた。
自分の胸に私の顔を押しつけ、つぶやく。
「……断られるかと思った」
彼が安堵したように息をつくから、私は慌てて首を振った。
「そんなわけないです! 私も黒瀬さんとずっと一緒にいたい……」
ジタバタして顔を上げようとしたら、「今、情けない顔してるから見るな」と言われた。
「えー、見たいです。そんな黒瀬さんも」
そう訴えたけど、彼は私の頭を抱き込んで見せてくれなかった。
表情は見えなかったけど、頬をつけた彼の胸からはいつもより速い鼓動を感じる。
緊張していたみたいだ。
「……黒瀬さんでも、不安になったりするんですね」
「当たり前だろう。特に瑞希に関しては、自分でも驚くほど弱気になる。だから、じわじわと外堀を埋めてきたんだが。格好悪いな」
苦笑した気配がして、頭の上が重くなった。
黒瀬さんが顔を伏せてきたのだ。
(いつも余裕がありそうな人が私にはこんなふうになるなんて)
彼の本気度がわかって、喜びがふつふつと湧いてくる。
最初は軽いし女の敵だし、そのくせ設計は素晴らしくて嫌味な人だと思っていたのに、実際の黒瀬さんを知るうち、いつのまにかこんなに好きになっていた。
「ううん、黒瀬さんはいつも格好いいですよ。それに、私、愛されてますね」
「あぁ、愛してる」
ようやく通常営業に戻ったのか、黒瀬さんは私の頭を離してくれて、彼の顔が見られた。
ニッと笑う彼に、そういう言葉は照れないのねとおかしくなる。
ふたたび抱きつき、私も告げた。
「私も愛してます。一生あなたのそばにいさせて?」
「もちろんだ」
私たち二人ならきっと居心地のいい家庭もデザインできる。
そんな確信を持ちながら、私を魅了する建物とその設計者を振り仰いだ。
ーFINー


