桜花彩麗伝
抜き身の剣を握り直した悠景は言を繋ぐ。
「責任を取ってもらいますよ。罪を犯したなら、相応の罰を受けねぇとな」
そのまま刃で斬り捨てるつもりか、あるいは峰打ちにでもして捕縛するつもりか、いずれにしても鬼気迫る勢いに気圧された春蘭は動けなかった。
即座に動いた煌凌が、身を挺して庇うべく抱き締めるような形となる。
駆け出した悠景が迫り、思わず目を瞑った。
────と、甲高く激しい音が響き渡る。
振り下ろされた悠景の刃を弾いたのは、朔弦の剣であった。
一瞬のうちに地を蹴った彼は、敏捷な動きで瞬く間に王と春蘭の前に立っていた。
受け止めた剣を勢いよく返し、今度は悠景らに切っ先を向ける。
少しく戸惑っていた悠景は我に返ると、憤然と睨めつけた。
「朔弦……! 邪魔すんじゃねぇ。裏切る気か?」
「……裏切ってなどいません。わたしの務めは主を守ること」
主にとっては、忠臣にほかならない。朔弦にとっての“主”は悠景でも煌翔でもなく、王だ。
彼の下した結論はやはり覆らなかった。たとえ、叔父に剣を向けることとなっても。
「莞永!」
朔弦の呼びかけに応じ、殿内から剣を佩した莞永と部下が数人飛び出してきた。
先ほどは微塵も気づかなかったが、この状況を見越した朔弦があらかじめ潜ませていたのであろう。
莞永が指笛を吹くと、数多の兵が牆壁の上に現れた。一様に弓を番え、鏃を“反乱軍”の面々に向けている。
「剣を捨て、大人しく降伏しろ。従わなければ、残らず心臓を射抜いてやる」
威圧感に満ちた朔弦の言葉に、兵らは怯んだように顔を見合わせた。
ひとり、またひとりとおののきながら剣を捨てる。
「ばか野郎! そんな脅迫に屈するくらいなら、端から剣なんか握るんじゃねぇ!」
憤激して吠えた悠景の背後に、莞永と数人の部下が素早く回り込む。
隙を突いてその腕を打ち、悠景の手から剣を落とすと膝を折らせた。
反撃に出るのを牽制するように、彼らは一瞬にして悠景を取り囲むと切っ先を向ける。観念するほかなく、降参した悠景は雄叫びとともに項垂れた。
「くそ……っ」
────みるみる士気を失った反乱軍を、朔弦の手配した部下らが順に捕縛していく。
それでもなお抵抗に出た兵が一部おり、静寂が打ち破られた場に剣戟の音が響いていた。
しかし、制圧されるのも時間の問題であろう。
もとより悠景に追従したのみである彼らは所詮、烏合の衆に過ぎず、その連携や勢力を削ぎ崩すことは容易であった。
ふと小門を見やった莞永はそこに、忙しなく周囲を見回しながら慎重にあとずさる旺靖の姿を見つけた。
密かに逃亡を図ろうとしている彼を、弾かれたように追う。
「待て!」