堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「こんな感じなんですね」

 思わずポツリとつぶやきが漏れた。
 テーブルも椅子もない立食パーティーに来るのは人生で初めてだ。
 食事はビュッフェスタイルだが、緊張して喉を通りそうにない。

「緊張してる?」
「それは……はい」
「大丈夫。俺がそばにいる」

 低い声が脳を痺れさせる。
 こうして先生はいとも簡単に私の胸を打ち抜くから、今日はドキドキしてばかりだ。

「羽瀬川先生もいらしてたんですか。その節はどうも」

 三十代後半くらいの少しふくよかな男性が突然話しかけてきた。

「社長、ご無沙汰しております」
「先生のような優秀な弁護士が法務部にいる国枝紡績さんは、今後も安泰ですね」

 私には誰なのかわからないけれど、先生の一歩後ろに下がりつつ、そばで一緒になって会釈をする。
 男性はもちろん私のことも視界に入っているはずだけれど、無粋だと思ったのか私たちの関係性について聞いてはこなかった。
 社交辞令が混ざった会話を交わしたあと、男性が去っていく後ろ姿を眺め、先生が小さく息を吐く。

「今のは“フィエルテ白衣”の社長。以前、会食したことがあってね」
「そうなんですか」

 フィエルテ白衣は国枝紡績と頻繁に取引のある大きな会社だ。先代のころから付き合いのある古いクライアントだと聞いている。
 仕事で副社長と行動を共にしていると、自然と彼も他社との会食の機会が増えるのだろう。

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