性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 三人の前に各自頼んだ料理が提供される頃、類はふと光の注文したものを見つめる。

 彼の前に置かれたのは小さなコーヒーカップだけで食事らしい食事が何もない。

 「光さん。まさか、それだけですか?」

 光はテーブルに置かれたコーヒーカップを手にとると、「そうだけど」といって不思議そうに首をかしげる。

 「お腹空いて無いんですか?」

 「そういう訳じゃないけど、何で?」

 「いや…、特に理由は無いんですけど…」

 類は自身の前に置かれたケーキをひとかけフォークにさして光の方へと差し出す。

 「…」

 「よかったらどうぞ。きっと美味しいですよ?」

 「美味しいですよ?って、お前まだ食って無いじゃん…」

 突然差し出されたケーキに光は分かりすく戸惑いの表情を見せると、どこか疑いの眼差しで類を見つめる。

 「あー、そうですよね…。でも、食べたらきっと美味しいと思いますよ?」

 「はあ?いいよ…、お前が食えよ」

 「そ、そんなこと言わずに、一口だけでも…」

 「いらない」

 「…」

 何故か引くに引けなくなってしまった類は何とかケーキを食べさせようと試みる。しかし、光は頑なにその要求を拒否する。すると、先程まで静かに座っていた檜森が助け舟を出す様に類に一つの秘策をさりげなく耳打ちする。

 「え?…それ本当に大丈夫なんですか?」

 「いいから騙されたと思ってやって見て下さい」

 檜森から何やら、悪知恵を受け取った類はどこか戸惑い気味に「光さん、あーん」と訳の分からぬことを言い始める。

 「…は?」

 何を言い出すかと思えば、檜森のアドバイスを間に受ける類の姿に光は顔を顰める。

 「ですから…、あーんです」

 「それを俺にやれってか?」

 「…えーと、まぁそういうことになりますね」

 何故か気まずい雰囲気になってしまったことに類は檜森へ再び助け舟を求める。すると、檜森は慌てた様子でさらなる秘策を類に伝える。

 類は気持ちを改め、一つ咳払いをすると再び光にフォークを差し出し、「では、毒味をお願いします」とまたもや意味不明なことを口走る。

 「毒味って、お前な…、入ってるわけねぇだろ。ってか仮に入ってたらどうすんだよ…。俺に死ねってか?」

 光の発言に類はハッとした表情で視線を泳がせる。普通に考えれば突っ込まれることくらいわかるはずなのだが、今の彼女にはそういう思考は持ち合わせていないらしい。

 「そ、そんな!まさか!あー、でも…そうですよね…確かに…」

 再び困ってしまった様子の類に、光は小さくため息を吐くと、さりげなく身につけていた黒いマスクを下へと下げる。

 「そんな、俺に食べて欲しいの?」

 「へ?!いや!そういう訳じゃ…」

 「だったら最初からそう言えよ…」

 光は「まどろっこしいな…」と毒づくと突然、体を前に乗り出してフォークに刺さったケーキにパクリと齧り付いた。

 「?!」

 「…味に問題なし、でも念のためもう一回」

 光はそういうと、再び大きく口を開けて類からのケーキを待ち受ける。傍から見ればただの「あーん」待ち構図も類からしてみれば心臓が飛び出そうなくらい破壊力が凄まじい。

 「…」

 「ほら、早くしろ」

 「あ、はい」

 類は再びフォークにケーキを刺すと、それを光の口元へと持っていく。

 「…」

 光は差し出されたフォークに再び噛り付くと、ようやく姿勢を元に戻してソファへと背中を預けた。

 「まぁ、でも一つ言うなら甘すぎだな…。二口で十分」

 「…」
 
 自分からやって置いておかしな話ではあるが、決してこういう事を期待していたわけではない。ただ、男耐性ゼロの類にとって今の一連の流れはとても恥ずかしいもののように思えた。

 「良かったっすね」

 何故か隣で満足そうに微笑む檜森に文句の一つも言えず、類は恥ずかしさを隠すようにケーキを黙々と頬張る事になった。

 (何か、凄く恥ずかしい…)

 類はケーキを頬張りながら光の方へ視線を送る。しかし、彼は相変わらず何食わぬ顔でコーヒーを飲み続けている。

 「いやぁ、でも旨いっすねラウンジの飯は」

 「今日の働きによっちゃ、お前は自腹な」

 「が、頑張ります…」

 光から発せられる謎の圧に、檜森は分かりやすく萎縮する。

 「それにしても、エリカの奴遅ぇな…」

 光は腕時計を見ると、もう既に待ち合わせ時間を一時間も回っている事に気づく。

 「もしかしたら、何かあったのかも」

 類は不安そうに光を見つめる。

 「最近物騒ですからね…」

 檜森も同じ様に光を見つめる。

 「どこぞのイケメンに、ナンパされちゃったりしちゃってたりして?」

 「「いや。それはない」」

 檜森と光の発言が珍しく一致すると、二人は声のする方へと振り向く。そこには、少々不満そうな表情をしたエリカがバッチリメイクで仁王立ちしていた。

 「エリカ…、遅ぇぞ。今何時だと思ってんだ…」

 光は不愉快な顔を隠すこともなくエリカを叱る。

 「ごめん!ごめんって!マジで今日メイクのノリ悪くって、そんで慌ててたらここに来る途中、マジイケメンに道聞かれちゃってさ!もう本当に大変だったっていうか」

 「急いでるんで、って言って断ればいいだろ…」

 光は疑いの眼差しをエリカに向ける。

 「だって、なんか、お母さんの手術がどうのこうのっていってたし…、周りの人みんな忙しそうだったし…ってごめん」

 少し、シュンとして謝るエリカの姿に類は何だか母親の様な気持ちで微笑む。

 「まぁ、いいじゃないですか。無事に着いた事ですし、困ってる人を放っておけなかったエリカちゃんに免じてこれ以上、怒らないであげて下さい」

 「るいちぃー…」

 エリカは少し目を潤ませながら類のことを見つめる。

 「それも、そうっすね!エリカちゃんは人助けしてから来た訳ですから!ね?先輩」

 檜森もエリカのことを庇う様に、光に笑顔を向ける。

 「…ったく、お前らって何でそんなめでたい頭してんだ」

 光はどこか呆れた表情でため息を吐くと、小さくため息を吐く。

 「まぁ…、今回は仕方ねぇにしても、今度から何か問題が起きたらすぐ俺に一報入れろ。わかったな?」

 光の言葉にエリカは「はーい!」と元気よく返事をする。

 「さて!みんな揃ったことですし、どこから行きます?」

 やけにノリノリな檜森に類は苦笑する。

 「んじゃ、まずはゲーセンで汗流しますか!るいちぃーゲーセンとか行ったことある?」

 エリカの質問に類は静かに頭を横に振る。

 「ほら、やっぱ、想像通り!んじゃ、あーしがゲーセンの魅力を余すことなく教えてあげるから!ほら!ヒカルンも、ヒモリンも、行こ行こ!」

 こうして、三人は半ば強制的にラウンジを後にすると、エリカ行きつけのゲームセンターへと足を運ぶこととなった。
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