性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
光が情緒不安定になってから五分後、ようやく光の後輩と思わしき人物が姿を現した。
「すんません!遅刻しました!」
男はヒカルを見かけるなり、物凄い勢いで頭を下げる。
「遅せぇぞ、檜森《ひもり》…。エリカはともかく、お前はいい歳した大人だろ…、時間くらい守れ」
光のガチ説教に、檜森と呼ばれた男は何度も頭を下げる。
「す、すみません!昨日ちょっと協会で厄介ごとがありまして…、その事務処理に追われてて…」
「…何かあったの?」
「いや、大した事はないんです。ただ堂上さんが話に入ってきてしまって、色々ややこしいことに…」
「…あぁ。そういう事」
何がそう言う事なのか理解できない類は、怪訝そうに光を見つめる。
「あ、もしかしてこの子ですか!先輩のお気に入りっていうぐッ…!?」
檜森の発言に光は間髪入れずに膝蹴りを喰らわす。
「な、何すんですか!」
「余計な事は言わなくていいんだよ…ってかエリカは?」
光は不愉快そうに尋ねる。
「エリカちゃんなら、さっき連絡あって…、メイクが決まらないから、先ゲーセンでも行っててくれって言ってましたよ?」
「ほら、言ったろ…」
「すみません…」
遅刻理由が本当にメイクであった事実に類は素直に謝罪する。
「ま、とにかくこんな格好で長時間人目に晒されるのはごめんだ…。一先ずラウンジ行くぞ」
「え?!、またあそこに行くんですか?」
あまりいい思い出の無い場所に、類は分かりやすく顔を顰める。
「嫌なら、お前だけここで待つ?」
「いえ、行きます」
「素直で宜しい」
光はそう言って微笑むと、その場で軽く印を切る。
「…歩いて行かないんですか?」
「この格好で歩きたくねぇんだよ、それに今日はお前の顔色もいいし、このまま飛んだ方が楽」
「すみませんね、以前は楽じゃなかったみたいで…」
遠回しに嫌味を言われたような気がして、類は愚痴をこぼす。
「んな、拗ねんなよ。一生に一度の経験をお前にさせてやるって言ってんだよ…」
光はそう言うと類の身体を思い切り引き寄せる。
「檜森、お前も掴まって」
「あ、はい!」
檜森も慌てて光の肩に手をかけると、光は素早く指を縦に二回切る。
「んじゃ、行くぞ…」
次の瞬間、周囲の景色がまるで早送りの様に流れ始めると、三人の身体は勢いよく宙へと突き抜ける。
急速に動き始めた身体と連動して、外の景色は歪み、気がつけば洒落たホテルのラウンジへと到着していた。
「…」
「はい、到着」
そのあまりにも非日常的な体験に類は思わず、言葉を失う。
「俺、手続きしてくるから何か適当に注文でもして待ってて」
光はそう言うと、二人を残して受付の方へと姿を消してしまった。
「…」
「大丈夫ですか?」
今だに、放心状態の類に檜森は心配そうに声をかける。
「おーい、聞こえてますかー?」
「…」
「類さーん?」
「…」
「あ!光先輩が超絶美人な女性に絡まれてる!」
「え?!どこ?どこ?」
「うっそー」
「…」
よりにもよって、よくわからない所で我に返ってしまった自分の愚かさに類は頭を抱える。
「ハハハ、良かった、良かった。魂抜けちゃったのかと思いましたよ?」
檜森はニッコリと人のいい笑みを浮かべる。
「すみません…、あぁいう事に慣れてなくて…」
いつだって、光や堂上の術には驚かされてばかりだ。
「まぁ、その気持ちはわかりますよ?俺も事務員なんで時々心臓飛び出しそうなくらい驚くことはあります。あ、そういえば自己紹介まだでしたね。陰陽師協会で事務員をしてます檜森健太《ひもりけんた》です。光先輩とはある仕事で色々とお世話になった仲で、今日は荷物持ち件、盛り上げ役として参りました!以後お見知り置きを」
檜森は丁寧に頭を下げると、再びニッコリと微笑んでみせる。陰陽師と事務員はこんなにも人柄に差が出るものなのだろうか。
「あ、私は…」
「南雲類さんですよね?、先輩やエリカちゃんから色々話は聞いてます」
「え、そうなんですか…?」
「えぇ、特に先輩からは電話で過度となく。あの人あぁ見えて心配性ですから、よく女の子の相談とかしてくるんですよ。そんな中でも君は過去一相談件数が多かった女の子です」
意外な言葉に類はキョトンとした表情で檜森を見つめる。
「私、そんなに光さんのこと困らせてしまってたんでしょうか…?」
「困らせたっていうか…まぁ、そうなんでしょうね」
いまいちはっきりしない檜森の反応に、類は困った様に眉根を下げる。
「ハハハ、気にしないでください。きっと遅めの思春期みたいなもんですよ。ほら?初恋相手に対してどう接していいかわからないみたいな、そんな感じです」
「初恋相手?」
「えぇ、要するにッぐっ?!」
檜森が意気揚々と話を続けようとすると、突然背後から光の蹴りが炸裂する。
「いい加減なこと喋ってんじゃねぇ…、何が初恋だ、ペラペラと余計な事喋りやがって…」
光は手続きを終えたのか、ソファに腰掛ける。
「で?食うもん決めたの?早く決めないと、水で済ませるぞ」
光の脅しともとれる発言に檜森は慌てて、メニュー表らしきものを手に取る。
「手続きは終わったんですか?」
「あぁ、滞りなく。お前も何か頼めよ」
光はそう言って類にメニュー表を手渡す。メニュー表を開くと、そこには軽食系の食べ物から、デザート、スナック、中には丼物まで用意がされている。
「うわぁ、結構色んなのあるんですね」
「ま、一応普段は普通のホテルだしな」
「私、このケーキプレートがいいです」
類は目を輝かせながら、メニュー表を指差す。
「先輩!僕は、がっつりローストビーフ丼がいいです!」
檜森も類のテンションを真似して、同じ様にメニュー表を指差すと、光は分かりやすく顔を顰めた。
「全然似てねぇし…もうそんなガッツリ食うのかよ…」
「えぇ、最近金欠で、ろくなもの食べてないので…」
「…しゃあねぇな」
光は一つ溜息を吐くと、近くにいた給仕係に注文を依頼する。
給仕係は注文を受けると、丁寧に頭を下げて、いそいそとどこかへ姿を消した。
「でも…良かったんですか?」
「何が?」
「勝手に三人でこんなとこ来ちゃって、エリカちゃん迷ったりしないですかね?」
類の素朴な疑問に、光と檜森は顔を見合わせる。
「迷うも何も、エリカはここの常連だ」
「え、陰陽師じゃないのに?」
類は子犬の様に、首を傾げる。
「んな事言ったら、お前も檜森も陰陽師じゃないだろ。まぁ家族割みたいなもんだよ。陰陽師の同伴で最大四人までは一般人の利用も可」
意外と、現代風なシステムが導入されている事に類は素直に驚く。
「ま、先輩の場合、同伴はしてないっすけどね」
「え…、それっていいんですか?」
「いいんだよ。俺には式神っていうスキルがあるから」
「式神…?」
聞き慣れない言葉に類は再び首を傾げる。
「要するに、俺の分身。一々同伴してる暇ないから社に式神置いてんだよ。お陰で社にいる奴らはここを使い放題」
光はどこか迷惑そうに顔を顰める。
「お陰で、クソみたいに出費が増えた…」
「出費?」
「飯代だよ…。ここの利用料は基本、陰陽師に請求がいくからな」
光の話に、類はあの三人がここで楽しそうに食事している風景を想像する。
「出費がキツいなら辞めてもえばいいじゃないですか?」
「テスト勉強が捗るんだとよ…。エリカや誠はともかく、礼二は何してんのか知らねぇけどな…」
なんだかんだで、ここを利用させてやるのは光なりの優しさなのだろう。
「何?」
何故か一人で嬉しそうに微笑む類に光は、首を傾げる。
「いや、相変わらず優しいんだなと」
「はあ?」
「うん。やっぱ光さんの本当ってこっちなんだなって」
「…俺、何か喜ばす様な事言った?」
光は困った表情で檜森に助け舟を求める。
「類さんはきっと、先輩の本質に触れられて嬉しいんすよ」
「…余計、意味わかんねぇ」
檜森の言葉に光はソファに身体を沈めると、どこか混乱した様子で顔を覆い隠す。
「まぁ、良かったじゃないっすか」
「何が?」
「ちょっとは好意的に思ってくれてるってことっすよ」
檜森の発言に光は何とも言えない表情を浮かべると、再びソファに深く沈み込んでいった。
「すんません!遅刻しました!」
男はヒカルを見かけるなり、物凄い勢いで頭を下げる。
「遅せぇぞ、檜森《ひもり》…。エリカはともかく、お前はいい歳した大人だろ…、時間くらい守れ」
光のガチ説教に、檜森と呼ばれた男は何度も頭を下げる。
「す、すみません!昨日ちょっと協会で厄介ごとがありまして…、その事務処理に追われてて…」
「…何かあったの?」
「いや、大した事はないんです。ただ堂上さんが話に入ってきてしまって、色々ややこしいことに…」
「…あぁ。そういう事」
何がそう言う事なのか理解できない類は、怪訝そうに光を見つめる。
「あ、もしかしてこの子ですか!先輩のお気に入りっていうぐッ…!?」
檜森の発言に光は間髪入れずに膝蹴りを喰らわす。
「な、何すんですか!」
「余計な事は言わなくていいんだよ…ってかエリカは?」
光は不愉快そうに尋ねる。
「エリカちゃんなら、さっき連絡あって…、メイクが決まらないから、先ゲーセンでも行っててくれって言ってましたよ?」
「ほら、言ったろ…」
「すみません…」
遅刻理由が本当にメイクであった事実に類は素直に謝罪する。
「ま、とにかくこんな格好で長時間人目に晒されるのはごめんだ…。一先ずラウンジ行くぞ」
「え?!、またあそこに行くんですか?」
あまりいい思い出の無い場所に、類は分かりやすく顔を顰める。
「嫌なら、お前だけここで待つ?」
「いえ、行きます」
「素直で宜しい」
光はそう言って微笑むと、その場で軽く印を切る。
「…歩いて行かないんですか?」
「この格好で歩きたくねぇんだよ、それに今日はお前の顔色もいいし、このまま飛んだ方が楽」
「すみませんね、以前は楽じゃなかったみたいで…」
遠回しに嫌味を言われたような気がして、類は愚痴をこぼす。
「んな、拗ねんなよ。一生に一度の経験をお前にさせてやるって言ってんだよ…」
光はそう言うと類の身体を思い切り引き寄せる。
「檜森、お前も掴まって」
「あ、はい!」
檜森も慌てて光の肩に手をかけると、光は素早く指を縦に二回切る。
「んじゃ、行くぞ…」
次の瞬間、周囲の景色がまるで早送りの様に流れ始めると、三人の身体は勢いよく宙へと突き抜ける。
急速に動き始めた身体と連動して、外の景色は歪み、気がつけば洒落たホテルのラウンジへと到着していた。
「…」
「はい、到着」
そのあまりにも非日常的な体験に類は思わず、言葉を失う。
「俺、手続きしてくるから何か適当に注文でもして待ってて」
光はそう言うと、二人を残して受付の方へと姿を消してしまった。
「…」
「大丈夫ですか?」
今だに、放心状態の類に檜森は心配そうに声をかける。
「おーい、聞こえてますかー?」
「…」
「類さーん?」
「…」
「あ!光先輩が超絶美人な女性に絡まれてる!」
「え?!どこ?どこ?」
「うっそー」
「…」
よりにもよって、よくわからない所で我に返ってしまった自分の愚かさに類は頭を抱える。
「ハハハ、良かった、良かった。魂抜けちゃったのかと思いましたよ?」
檜森はニッコリと人のいい笑みを浮かべる。
「すみません…、あぁいう事に慣れてなくて…」
いつだって、光や堂上の術には驚かされてばかりだ。
「まぁ、その気持ちはわかりますよ?俺も事務員なんで時々心臓飛び出しそうなくらい驚くことはあります。あ、そういえば自己紹介まだでしたね。陰陽師協会で事務員をしてます檜森健太《ひもりけんた》です。光先輩とはある仕事で色々とお世話になった仲で、今日は荷物持ち件、盛り上げ役として参りました!以後お見知り置きを」
檜森は丁寧に頭を下げると、再びニッコリと微笑んでみせる。陰陽師と事務員はこんなにも人柄に差が出るものなのだろうか。
「あ、私は…」
「南雲類さんですよね?、先輩やエリカちゃんから色々話は聞いてます」
「え、そうなんですか…?」
「えぇ、特に先輩からは電話で過度となく。あの人あぁ見えて心配性ですから、よく女の子の相談とかしてくるんですよ。そんな中でも君は過去一相談件数が多かった女の子です」
意外な言葉に類はキョトンとした表情で檜森を見つめる。
「私、そんなに光さんのこと困らせてしまってたんでしょうか…?」
「困らせたっていうか…まぁ、そうなんでしょうね」
いまいちはっきりしない檜森の反応に、類は困った様に眉根を下げる。
「ハハハ、気にしないでください。きっと遅めの思春期みたいなもんですよ。ほら?初恋相手に対してどう接していいかわからないみたいな、そんな感じです」
「初恋相手?」
「えぇ、要するにッぐっ?!」
檜森が意気揚々と話を続けようとすると、突然背後から光の蹴りが炸裂する。
「いい加減なこと喋ってんじゃねぇ…、何が初恋だ、ペラペラと余計な事喋りやがって…」
光は手続きを終えたのか、ソファに腰掛ける。
「で?食うもん決めたの?早く決めないと、水で済ませるぞ」
光の脅しともとれる発言に檜森は慌てて、メニュー表らしきものを手に取る。
「手続きは終わったんですか?」
「あぁ、滞りなく。お前も何か頼めよ」
光はそう言って類にメニュー表を手渡す。メニュー表を開くと、そこには軽食系の食べ物から、デザート、スナック、中には丼物まで用意がされている。
「うわぁ、結構色んなのあるんですね」
「ま、一応普段は普通のホテルだしな」
「私、このケーキプレートがいいです」
類は目を輝かせながら、メニュー表を指差す。
「先輩!僕は、がっつりローストビーフ丼がいいです!」
檜森も類のテンションを真似して、同じ様にメニュー表を指差すと、光は分かりやすく顔を顰めた。
「全然似てねぇし…もうそんなガッツリ食うのかよ…」
「えぇ、最近金欠で、ろくなもの食べてないので…」
「…しゃあねぇな」
光は一つ溜息を吐くと、近くにいた給仕係に注文を依頼する。
給仕係は注文を受けると、丁寧に頭を下げて、いそいそとどこかへ姿を消した。
「でも…良かったんですか?」
「何が?」
「勝手に三人でこんなとこ来ちゃって、エリカちゃん迷ったりしないですかね?」
類の素朴な疑問に、光と檜森は顔を見合わせる。
「迷うも何も、エリカはここの常連だ」
「え、陰陽師じゃないのに?」
類は子犬の様に、首を傾げる。
「んな事言ったら、お前も檜森も陰陽師じゃないだろ。まぁ家族割みたいなもんだよ。陰陽師の同伴で最大四人までは一般人の利用も可」
意外と、現代風なシステムが導入されている事に類は素直に驚く。
「ま、先輩の場合、同伴はしてないっすけどね」
「え…、それっていいんですか?」
「いいんだよ。俺には式神っていうスキルがあるから」
「式神…?」
聞き慣れない言葉に類は再び首を傾げる。
「要するに、俺の分身。一々同伴してる暇ないから社に式神置いてんだよ。お陰で社にいる奴らはここを使い放題」
光はどこか迷惑そうに顔を顰める。
「お陰で、クソみたいに出費が増えた…」
「出費?」
「飯代だよ…。ここの利用料は基本、陰陽師に請求がいくからな」
光の話に、類はあの三人がここで楽しそうに食事している風景を想像する。
「出費がキツいなら辞めてもえばいいじゃないですか?」
「テスト勉強が捗るんだとよ…。エリカや誠はともかく、礼二は何してんのか知らねぇけどな…」
なんだかんだで、ここを利用させてやるのは光なりの優しさなのだろう。
「何?」
何故か一人で嬉しそうに微笑む類に光は、首を傾げる。
「いや、相変わらず優しいんだなと」
「はあ?」
「うん。やっぱ光さんの本当ってこっちなんだなって」
「…俺、何か喜ばす様な事言った?」
光は困った表情で檜森に助け舟を求める。
「類さんはきっと、先輩の本質に触れられて嬉しいんすよ」
「…余計、意味わかんねぇ」
檜森の言葉に光はソファに身体を沈めると、どこか混乱した様子で顔を覆い隠す。
「まぁ、良かったじゃないっすか」
「何が?」
「ちょっとは好意的に思ってくれてるってことっすよ」
檜森の発言に光は何とも言えない表情を浮かべると、再びソファに深く沈み込んでいった。