性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
「ってか、てか!るいちぃー可愛いじゃん!」
ラウンジを出てすぐにエリカは興奮気味に類の制服姿を賞賛する。
「え?!そ、そうかな?」
「うん!うん!本当に中学生ーって感じ!」
「エリカ、それは褒め言葉じゃねぇぞ…」
二人の後ろを歩いていた光が一言突っ込みを入れる。
「ち、違う!違う!ソレくらい違和感なくて可愛い!ってこと!ヒカルンだってそう思ったでしょ?!」
エリカは慌てて弁解すると、光の顔を覗き込んで率直な意見を求める。
「…まぁ、悪かねぇ」
「何ソレー、素直に可愛っていいなさいよ」
「俺に素直さを求めんな」
光は鬱陶しそうに言葉を返すと、エリカを抜かして類の隣に立つ。
「ってか、これデートなんだろ?だったら、お前は檜森と行動しろ。そっちの方が色々と安心だ」
光の提案に類は頷く。確かに自分のような頼りない人間といるより、檜森さんと行動を共にしてくれた方がいいのかもしれない。
「えぇー!あーしがデートしたいのは、るいちぃー何ですけどー!」
「うっせ、さっさと歩け」
「まぁ、まぁ」
檜森がエリカを宥めていると、光は至極当たり前の様に類の手を握った。
(…?)
あまりに自然なその行動に類は少々驚く。まさか、光から手を繋がれるとは思っても見なかった。
「一応な、都内は色々危ねぇから…」
類の心境を察したのか光はボソッと呟くと、類の手を引いて歩き始める。
所詮、恋人繋ぎのソレに類は困惑するが、周囲を見渡してみると意外とそんな人はザラにいることを知り、己の経験値の低さを改めて思い知らされる。
(これが、普通なのかな?)
***
ゲームセンターに到着すると、類はどこかホッとした様子で胸を撫でおろす。
何故なら、ここまでの道すがら、多く女性が光を見ては容赦なく声をかけてきた為である。直接的に侮辱されたわけではないが、どこか疎まし気な視線を浴びせられていた為に、類の心はどっと疲れていた。
檜森とエリカはそういった状況に慣れているらしく、特段気にする素振りも見せなかったが、類は内心気が気でなかった。
(マスクしてるのに、何であんなモテるかな…)
先ほどまでの事を思い出し類は、その場で小さくため息を吐く。
「どした?疲れたか?」
「い、いえ!色々と驚いただけです!」
「そう。あんま気にすんなよ…、ただでさえ人混みは憑かれるからな…」
光はそう言うと周囲を警戒する様にゲームセンター内を見渡す。特段変わった様子は見られないが光には何か見えてるのだろうか?
「でも、エリカちゃん。ゲームセンターなんか来て何するの?ゲームって柄じゃないよね?」
檜森は光達の後に続きながら隣を歩くエリカに尋ねる。
「何するって…、ゲーセンきたらあれ一択っしょ!」
そういうとエリカは一目散に、UFOキャッチャーのコーナーへと駆け寄っていく。
「ガキかよ…」
光はその行動に愚痴をこぼすと、エリカは「ガキですけど何か?」とわかりやすく顔を顰めて見せる。
「さ、さ、るいちぃーはどれやりたい?」
「え?私?」
てっきり、エリカのやりたいゲームをするものだと思っていた類は、突然の無茶振り?に頭を悩ませる。
「えーっと…」
「うんうん!」
「そうだなー…」
正直、初めてのことすぎて何がやりたいかなんてわからない。
類はうんうんと唸りながら、無数のUFOキャッチャーを見比べる。
「そんな悩む事…?」
「す、すみません…えーっと」
痺れを切らした光の態度に類は「あ、あれかな…?」と遠慮気味に指を刺す。
「あれって…、本当にあれでいいの?」
どこか驚いた表情で確認をとるエリカに類は小さく頷く。
「おい。これって、あれだろ…」
「何か意外っすね」
「まぁ、いいじゃん!人にはそれぞれ好みってモノがあるんだから!」
エリカのフォローとも取れる発言に類は、何か良くない物でも選択してしまったのかと不安そうに光を見つめる。
「一応、流行を知らないお前の為に説明しておくけど、これは某幼児向けアニメのマスコットキャラクターだ。確か…」
「日曜、朝七時!マジカル、ハートフル♪に出てくる魔法少女の相棒!マジカル、ピュアニャン⭐︎だよ!」
エリカの完璧な説明に光は「あー、それな…」と興味なさげに答える。
「国民的なアニメで結構昔からやってるんすよね?、確か今のマジカル魔法少女は…」
「十三代目!」
世襲制なのか?と類は内心突っ込みを入れるが、一先ず、三人の言わんとしていることを理解する。
「そ、そうなんだ。えっと…、じゃあ、別のにしようかなー」
すると、そんな類の反応を見かねて光はわざとらしく咳払いをした。
「お前がいいって思ったんなら、やってみたら?」
「え、でも…」
「周りの反応は気にすんな…、お前はお前の好きなものを好きでいいんだよ」
視線をそらして、どこか気恥ずかしそうに呟く光の態度に類も何故か気恥ずかしくなる。
「そうそう!、気になったんなら迷わずやってみるべし!って事でヒモリン三百円!」
「ぼ、僕が出すんですか?!」
「だって、るいちぃーの初ゲーセン体験だよ?ここで出さなくて、いつ出すの?」
エリカの謎の説得に檜森は渋々財布を取り出そうとする。しかし、その行動よりも早く光がポケットから小銭を出してコイン投入口へとコインを流し込んだ。
「はい。これで五回はできるから、自由に使っていいよ」
「ヒカルン、太っ腹ー♪」
たかがUFOキャッチャーに大量の資金(高校生にしては)を投じた光にエリカはヒューヒューと口笛を吹く。
「い、いいんですか?」
「今更遠慮してんな、ほら、早くしないと制限時間なくなるぞ」
光の言葉に類は、UFOキャッチャーに表示された電工パネルのカウントが徐々に減っていることに気が付く。
「え?!、これ無制限じゃないの?!」
「こういう大きめのは制限時間付きが多いんすよねー」
呑気な檜森の言葉を他所に、類は慌ててレバーを動かす。
「え?、あれ?!、ちょっと!」
初めてのことということもあり、アームの位置がうまく定まらない。
「あ!違う!こっち!」
何度やっても、ぬいぐるみより少しズレた場所で停止するアームに類は思わず声を上げる。
「おい。もっと奥だ奥」
「えー、あーし的にはもっと手前!」
「そうですか?僕はそのままでいいと思いますけど…」
背後から聞こえる、海千山千な意見にアームは右往左往すると、よくわからない位置で停止する。
「あ、しまった!」
類がアームの位置を元に戻そうとしたのも束の間、アームはぬいぐるみの足元だけをかするように地面へと着地すると、そのまま何も掴まずに上へと浮上した。
「あー!残念!でも後四回出来るから!」
エリカの励ましに、類は頷く。しかし、その後もアームはぬいぐるみを捉える事なく、気づけば最後のプレイも束の間の内に終わってしまった。
「む、難しかった…」
現代ゲームの難しさに、類は頭を振る。
「まぁ、初めてじゃ仕方ないっすよ!僕なんて、こういうゲームで取れた事二、三回程度ですから!」
檜森は類を励ますと、自身の経験を語る。すると、何を思ったのか、光は再びポケットからコインを一枚取り出し、それを投入口へと入れた。
「光さん!もういいですって!」
「お前ら下手すぎなんだよ、俺が見本見せてやる」
光はどこか、得意げにそう言うと、レバーを慣れた手つきで動かし始める。
時間にして、ほんの十五秒程だろうか?
アームは見事にぬいぐるみを捉え、とても安定した動きで景品を大きな穴へと落とした。
「す、凄い!」
類はその手早さと慣れた手つきに驚く。ゲームセンターとは無縁の生活をしてそうな彼がまさか、こんなにも上手くぬいぐるみを落とすとは思っても見なかった。
「ほらよ」
光は景品口から、人形を取り出すとそれを放り投げる様に類へと渡す。
「あ、ありがとうございます…」
「どーいたしまして」
光はどこか満足そうに微笑む。
「えー!いいなぁ!あーしもとって欲しいぬいぐるみあんだけどー!」
「てめぇは慣れてんだろ…、自分でとれよ」
「えー!じゃあ、ヒモリン取って?」
「さっきの僕の話聞いてました?」
「いいから!いいから!」
エリカは檜森の腕を無理やり引っ張ると、何故かエスカレーターで上の階へと姿を消した。
「あれ、エリカちゃん!上の階はクレーンゲームないよー?」
類は慌てて呼び止めるが、エリカは檜森の腕を組んだままこちらに手を振っている。
「気づいてないのかな?」
「わざとだな…」
「わざと?」
光の発言に類は首を傾げる。
「いや、何でもない…。まぁ檜森が一緒なら問題ねぇだろ…」
光はそう言うと再び類に手を差し出した。
「ほら、次は何やりたいの?」
類は光のその素振りに一瞬、思考を停止させる。
「んだよ。腕組んで歩きたいだの言ってたのはお前だろ」
「いや、そうですけど…」
確かにデートが始まる前まではデートらしい事をしたいと思っていたのは事実だ。しかし、いざ本当にそれらしいことをするとなると何故こんなにも羞恥心が湧いてくるのだろう。
「光さんは、何かやりたいゲームとかないんですか?」
類は遠慮気味に光の手を取ると、来た時と同じ様に恋人繋ぎをする。
「俺は学生時代散々やったから特に無い」
「え、そうなんですか?」
意外な回答に類は驚く。
「礼二に誘われてよく来たんだ…、これからの時代はゲームできる奴がモテるとか何とか言って休みの日に引っ張り回されてな」
「礼二さんらしいですね…」
何となく想像出来てしまった礼二の姿に類はクスリと微笑む。
「だから、他に欲しいのがあったら遠慮なく言って。大体は取れると思うから…」
光はそう言うと、類の手を引いて歩き始める。周りを見渡せば沢山のぬいぐるみやフィギュアの景品が所狭しと並んでいる。しかし、何故か類にはそんな景品どうでもいいことの様に思えてしまった。
「…」
「ゲームコーナーでもいくか?」
「え?!」
突然黙り込んでしまった類を見かねて光は下の階を指差す。
「お前、あんま楽しそうじゃ無いからさ…」
どうやら、光なりに気を遣っての言葉だった様である。
「いや!た、楽しいです!ただ、初めてのことなので…、何がやりたいのかもよくわかってなくて…」
類は申し訳なさそうに呟く。
「まぁそうだよな…、エリカ達がいなかったらゲーセンなんて連れてこなかったんだけど…」
光も何故か申し訳なさそうに呟く。
「…そもそも、場所のチョイスが高校生なんだよ。ったく。もっと他にあんだろ」
「他ですか?」
「水族館とか、遊園地とか、動物園とか…」
光の口から出てきた可愛らしい言葉達に類は微笑む。
「んだよ…」
「いえ。光さんも案外普通なんだなって」
「普通な俺は嫌?」
「い、いえ!そんなことありません!ただ、人間らしい姿が垣間見えて良かったなと思っただけです!」
慌てて、弁解する類の姿に光は苦笑する。
「お前の中の俺はそんなに、化け物なのかよ」
「いや、そう言う訳じゃ!」
「へいへい。んじゃあ、化け物らしく格闘ゲームコーナーで対戦でもしますか」
光はどこか悪戯っ子の様に微笑むと、類の手を引いてエスカレーターへと乗り込んだ。
ラウンジを出てすぐにエリカは興奮気味に類の制服姿を賞賛する。
「え?!そ、そうかな?」
「うん!うん!本当に中学生ーって感じ!」
「エリカ、それは褒め言葉じゃねぇぞ…」
二人の後ろを歩いていた光が一言突っ込みを入れる。
「ち、違う!違う!ソレくらい違和感なくて可愛い!ってこと!ヒカルンだってそう思ったでしょ?!」
エリカは慌てて弁解すると、光の顔を覗き込んで率直な意見を求める。
「…まぁ、悪かねぇ」
「何ソレー、素直に可愛っていいなさいよ」
「俺に素直さを求めんな」
光は鬱陶しそうに言葉を返すと、エリカを抜かして類の隣に立つ。
「ってか、これデートなんだろ?だったら、お前は檜森と行動しろ。そっちの方が色々と安心だ」
光の提案に類は頷く。確かに自分のような頼りない人間といるより、檜森さんと行動を共にしてくれた方がいいのかもしれない。
「えぇー!あーしがデートしたいのは、るいちぃー何ですけどー!」
「うっせ、さっさと歩け」
「まぁ、まぁ」
檜森がエリカを宥めていると、光は至極当たり前の様に類の手を握った。
(…?)
あまりに自然なその行動に類は少々驚く。まさか、光から手を繋がれるとは思っても見なかった。
「一応な、都内は色々危ねぇから…」
類の心境を察したのか光はボソッと呟くと、類の手を引いて歩き始める。
所詮、恋人繋ぎのソレに類は困惑するが、周囲を見渡してみると意外とそんな人はザラにいることを知り、己の経験値の低さを改めて思い知らされる。
(これが、普通なのかな?)
***
ゲームセンターに到着すると、類はどこかホッとした様子で胸を撫でおろす。
何故なら、ここまでの道すがら、多く女性が光を見ては容赦なく声をかけてきた為である。直接的に侮辱されたわけではないが、どこか疎まし気な視線を浴びせられていた為に、類の心はどっと疲れていた。
檜森とエリカはそういった状況に慣れているらしく、特段気にする素振りも見せなかったが、類は内心気が気でなかった。
(マスクしてるのに、何であんなモテるかな…)
先ほどまでの事を思い出し類は、その場で小さくため息を吐く。
「どした?疲れたか?」
「い、いえ!色々と驚いただけです!」
「そう。あんま気にすんなよ…、ただでさえ人混みは憑かれるからな…」
光はそう言うと周囲を警戒する様にゲームセンター内を見渡す。特段変わった様子は見られないが光には何か見えてるのだろうか?
「でも、エリカちゃん。ゲームセンターなんか来て何するの?ゲームって柄じゃないよね?」
檜森は光達の後に続きながら隣を歩くエリカに尋ねる。
「何するって…、ゲーセンきたらあれ一択っしょ!」
そういうとエリカは一目散に、UFOキャッチャーのコーナーへと駆け寄っていく。
「ガキかよ…」
光はその行動に愚痴をこぼすと、エリカは「ガキですけど何か?」とわかりやすく顔を顰めて見せる。
「さ、さ、るいちぃーはどれやりたい?」
「え?私?」
てっきり、エリカのやりたいゲームをするものだと思っていた類は、突然の無茶振り?に頭を悩ませる。
「えーっと…」
「うんうん!」
「そうだなー…」
正直、初めてのことすぎて何がやりたいかなんてわからない。
類はうんうんと唸りながら、無数のUFOキャッチャーを見比べる。
「そんな悩む事…?」
「す、すみません…えーっと」
痺れを切らした光の態度に類は「あ、あれかな…?」と遠慮気味に指を刺す。
「あれって…、本当にあれでいいの?」
どこか驚いた表情で確認をとるエリカに類は小さく頷く。
「おい。これって、あれだろ…」
「何か意外っすね」
「まぁ、いいじゃん!人にはそれぞれ好みってモノがあるんだから!」
エリカのフォローとも取れる発言に類は、何か良くない物でも選択してしまったのかと不安そうに光を見つめる。
「一応、流行を知らないお前の為に説明しておくけど、これは某幼児向けアニメのマスコットキャラクターだ。確か…」
「日曜、朝七時!マジカル、ハートフル♪に出てくる魔法少女の相棒!マジカル、ピュアニャン⭐︎だよ!」
エリカの完璧な説明に光は「あー、それな…」と興味なさげに答える。
「国民的なアニメで結構昔からやってるんすよね?、確か今のマジカル魔法少女は…」
「十三代目!」
世襲制なのか?と類は内心突っ込みを入れるが、一先ず、三人の言わんとしていることを理解する。
「そ、そうなんだ。えっと…、じゃあ、別のにしようかなー」
すると、そんな類の反応を見かねて光はわざとらしく咳払いをした。
「お前がいいって思ったんなら、やってみたら?」
「え、でも…」
「周りの反応は気にすんな…、お前はお前の好きなものを好きでいいんだよ」
視線をそらして、どこか気恥ずかしそうに呟く光の態度に類も何故か気恥ずかしくなる。
「そうそう!、気になったんなら迷わずやってみるべし!って事でヒモリン三百円!」
「ぼ、僕が出すんですか?!」
「だって、るいちぃーの初ゲーセン体験だよ?ここで出さなくて、いつ出すの?」
エリカの謎の説得に檜森は渋々財布を取り出そうとする。しかし、その行動よりも早く光がポケットから小銭を出してコイン投入口へとコインを流し込んだ。
「はい。これで五回はできるから、自由に使っていいよ」
「ヒカルン、太っ腹ー♪」
たかがUFOキャッチャーに大量の資金(高校生にしては)を投じた光にエリカはヒューヒューと口笛を吹く。
「い、いいんですか?」
「今更遠慮してんな、ほら、早くしないと制限時間なくなるぞ」
光の言葉に類は、UFOキャッチャーに表示された電工パネルのカウントが徐々に減っていることに気が付く。
「え?!、これ無制限じゃないの?!」
「こういう大きめのは制限時間付きが多いんすよねー」
呑気な檜森の言葉を他所に、類は慌ててレバーを動かす。
「え?、あれ?!、ちょっと!」
初めてのことということもあり、アームの位置がうまく定まらない。
「あ!違う!こっち!」
何度やっても、ぬいぐるみより少しズレた場所で停止するアームに類は思わず声を上げる。
「おい。もっと奥だ奥」
「えー、あーし的にはもっと手前!」
「そうですか?僕はそのままでいいと思いますけど…」
背後から聞こえる、海千山千な意見にアームは右往左往すると、よくわからない位置で停止する。
「あ、しまった!」
類がアームの位置を元に戻そうとしたのも束の間、アームはぬいぐるみの足元だけをかするように地面へと着地すると、そのまま何も掴まずに上へと浮上した。
「あー!残念!でも後四回出来るから!」
エリカの励ましに、類は頷く。しかし、その後もアームはぬいぐるみを捉える事なく、気づけば最後のプレイも束の間の内に終わってしまった。
「む、難しかった…」
現代ゲームの難しさに、類は頭を振る。
「まぁ、初めてじゃ仕方ないっすよ!僕なんて、こういうゲームで取れた事二、三回程度ですから!」
檜森は類を励ますと、自身の経験を語る。すると、何を思ったのか、光は再びポケットからコインを一枚取り出し、それを投入口へと入れた。
「光さん!もういいですって!」
「お前ら下手すぎなんだよ、俺が見本見せてやる」
光はどこか、得意げにそう言うと、レバーを慣れた手つきで動かし始める。
時間にして、ほんの十五秒程だろうか?
アームは見事にぬいぐるみを捉え、とても安定した動きで景品を大きな穴へと落とした。
「す、凄い!」
類はその手早さと慣れた手つきに驚く。ゲームセンターとは無縁の生活をしてそうな彼がまさか、こんなにも上手くぬいぐるみを落とすとは思っても見なかった。
「ほらよ」
光は景品口から、人形を取り出すとそれを放り投げる様に類へと渡す。
「あ、ありがとうございます…」
「どーいたしまして」
光はどこか満足そうに微笑む。
「えー!いいなぁ!あーしもとって欲しいぬいぐるみあんだけどー!」
「てめぇは慣れてんだろ…、自分でとれよ」
「えー!じゃあ、ヒモリン取って?」
「さっきの僕の話聞いてました?」
「いいから!いいから!」
エリカは檜森の腕を無理やり引っ張ると、何故かエスカレーターで上の階へと姿を消した。
「あれ、エリカちゃん!上の階はクレーンゲームないよー?」
類は慌てて呼び止めるが、エリカは檜森の腕を組んだままこちらに手を振っている。
「気づいてないのかな?」
「わざとだな…」
「わざと?」
光の発言に類は首を傾げる。
「いや、何でもない…。まぁ檜森が一緒なら問題ねぇだろ…」
光はそう言うと再び類に手を差し出した。
「ほら、次は何やりたいの?」
類は光のその素振りに一瞬、思考を停止させる。
「んだよ。腕組んで歩きたいだの言ってたのはお前だろ」
「いや、そうですけど…」
確かにデートが始まる前まではデートらしい事をしたいと思っていたのは事実だ。しかし、いざ本当にそれらしいことをするとなると何故こんなにも羞恥心が湧いてくるのだろう。
「光さんは、何かやりたいゲームとかないんですか?」
類は遠慮気味に光の手を取ると、来た時と同じ様に恋人繋ぎをする。
「俺は学生時代散々やったから特に無い」
「え、そうなんですか?」
意外な回答に類は驚く。
「礼二に誘われてよく来たんだ…、これからの時代はゲームできる奴がモテるとか何とか言って休みの日に引っ張り回されてな」
「礼二さんらしいですね…」
何となく想像出来てしまった礼二の姿に類はクスリと微笑む。
「だから、他に欲しいのがあったら遠慮なく言って。大体は取れると思うから…」
光はそう言うと、類の手を引いて歩き始める。周りを見渡せば沢山のぬいぐるみやフィギュアの景品が所狭しと並んでいる。しかし、何故か類にはそんな景品どうでもいいことの様に思えてしまった。
「…」
「ゲームコーナーでもいくか?」
「え?!」
突然黙り込んでしまった類を見かねて光は下の階を指差す。
「お前、あんま楽しそうじゃ無いからさ…」
どうやら、光なりに気を遣っての言葉だった様である。
「いや!た、楽しいです!ただ、初めてのことなので…、何がやりたいのかもよくわかってなくて…」
類は申し訳なさそうに呟く。
「まぁそうだよな…、エリカ達がいなかったらゲーセンなんて連れてこなかったんだけど…」
光も何故か申し訳なさそうに呟く。
「…そもそも、場所のチョイスが高校生なんだよ。ったく。もっと他にあんだろ」
「他ですか?」
「水族館とか、遊園地とか、動物園とか…」
光の口から出てきた可愛らしい言葉達に類は微笑む。
「んだよ…」
「いえ。光さんも案外普通なんだなって」
「普通な俺は嫌?」
「い、いえ!そんなことありません!ただ、人間らしい姿が垣間見えて良かったなと思っただけです!」
慌てて、弁解する類の姿に光は苦笑する。
「お前の中の俺はそんなに、化け物なのかよ」
「いや、そう言う訳じゃ!」
「へいへい。んじゃあ、化け物らしく格闘ゲームコーナーで対戦でもしますか」
光はどこか悪戯っ子の様に微笑むと、類の手を引いてエスカレーターへと乗り込んだ。