性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
      ーーーーーYou lose…ーーーー

 類は画面に映し出された文字列にガックリと頭を下げる。

 光と格闘ゲームを初めてからというもの、完敗続きである。

 「お前、弱すぎ」

 隣でクスクスと笑いながら小馬鹿にする光に類は頬を膨らます。

 「も、もう一回です!次こそは勝ちます!」

 「もうやめとけ。どんなに頑張っても俺に勝つなんて十年早ぇんだよ」

 「そ、そこを何とか!次こそは勝ちますから!本当ですから!」

 両手を合わせて必死にお願いする類の姿に光は小さく溜め息を吐く。

 「んじゃあ、次で終いな。流石に俺にも疲れてきたから」

 光はそう言うと財布を取り出す。しかし、そこで小銭を切らしていることに気付かされる。

 「悪り…、ちょっと待ってて。両替してくる」

 光はそう言うと、席を立ってどこかに行ってしまった。

 突然、置いてけぼりにされた類は、仕方なくその場で光の帰りを待つ、周囲は意外にも閑散としていて先程いたクレーンゲームコーナーより居心地が良い。

 (よし…、次はこのコマンドを使ってー)

 一人、ゲームの必勝法について考えを巡らせていると、ふと背後に気配を感じた。



 「ねぇ、ねぇ、君一人?」

 
 
 顔を上げるとそこには、いかにもチャラついた身なりの男か二人、類の顔を見てニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。

 「…ど、どちら様ですか?」

 類は思わずその二人が何者なのかを尋ねてしまう。

 「君、高校生?どちら様なんて難しい言葉よく知ってるね。お兄さん感激」

 男の一人がそう言うと、二人は類を挟む様にして左右の椅子に腰掛ける。

 「ねぇ、女の子一人で格ゲーしてんの?」

 「いえ、私は別に…」

 「俺たちさ。こう見えてスポーツマンなんだ。あっちで体動かすゲームしようよ」

 「結構です…。私はここにー」

 「んなこと言うなよ。俺たち暇なんだ。ちょっとだけ付き合ってよ」

 男の一人が言葉を遮ると、類を無理やりその場に立たせる。

 「い、痛いです!」

 類は思わず声を上げる。

 すると、男は「いいから着いてこいよ」と怒りを露わにした。

 男達の怒りに恐怖した類は大人しく二人の後をついていくと、一つの玉入れゲームの前で足を止める。

 「お嬢ちゃんこれ知ってる?」

 男達がボールをくるくると回しながら類に尋ねる。

 「バスケットボール…ですか…?」

 「そうそう。よく知ってんじゃん」

 男の一人が嬉しそうに呟くと、意外にも綺麗なフォームでそのボールをゴールネットへと投げ入れる。よく見ると、細長いバスケットコートのような形をしているそれに類はここがバスケットゲームのコーナーであることを知る。

 「今から俺たちと勝負しようよ。俺らが勝ったら、今日一日デートに付き合ってよ」

 男達は無謀な要求を類に突きつける。

 「わ、私今デート中なのでそれは出来ません…」

 突然、そんなことを言われても困ってしまう。類は困惑した様子で答える。

 「へぇ、んじゃ彼氏も連れてこいよ」

 「そ、それは…」

 「出来ねぇんならお嬢ちゃん一人で勝つことだな…。勝ったら諦めてやるよ」

 「そ、そんな!」

 バスケなんて生まれてこの方やったこともない。

 どう考えても勝ってこない勝負を押し付けられ、類は泣きそうになる。

 (どうしよう…、私、バスケなんて…)

 ゴールネットまでの距離は意外にも離れている。初心者が普通に投げて果たして入るものだろうか?

 「んじゃ、三回あそこに入れた方が勝ちってことで」

 男の一人が勝手にルールを決めると、素早く最初の一投をゴールネットへ決めた。

 「はい。次は君ね」

 類はボールを手渡されると、仕方なくそれをゴールネットと投げ入れる。しかし、ボールはゴールにかすることもなく派手に地面をリバウンドする。

 「ハハハ!、まぁ素人ならしゃなぇな」

 「しゃあねぇ、しゃあねぇ」

 男達はどこか小馬鹿にするように笑い出すと、二投目をゴールに投げ入れる。ボールは綺麗な弧を描くと、ゴールネットに吸い寄せられていく。

 「ほい。これでこっちは二点。次外したら負け確定な」

 男の一人が意地悪く呟くと、いよいよ類の身体が震え始める。

 (どうしよう…、こんなの絶対勝てない)

 目頭が熱くなる。

 類は泣きそうになるのを堪えながら、ボールを投げ入れようと構える。こんなことなら光や礼二に投げ方の一つでも習って置くべきだった。

 類は狙いを定めると、投げやりにボールを投げた。すると、不思議なことにボールはよくわからない軌道を描いてゴールネットへと吸い寄せられていく。

 「え?」

 類は思わず声を上げる。

 どう考えても外れると予測していたボールは、綺麗にゴールネットの中をすり抜けると静かに地面に着地した。

 それを見ていた男達二人も驚いた表情を見せる。





 

 「わー、すげぇや」





 唖然とする三人を他所に、小さなコートの外からこれまた投げやりな声が鳴り響く。

 三人は驚いて振り向くと、そこには明らかに異質な雰囲気を纏った光が、パチパチとやる気の無い拍手を送っていた。

 「ひ、光さん…」

 「誰だ!てめぇ!」

 男達二人は、煽りとも取れる光の態度に腹を立てると、苛立った様子で光に近づいていく。

 「見せ者じゃねぇんだ。さっさと失せな」

 男の一人が、光の胸倉を掴む。しかし光はヘラヘラと笑いながら両腕を上げている。

 「ごめん、ごめん。でも面白くってさ」

 「何が面白れぇってんだ…」

 胸倉を掴んでいるというのに、恐怖の色を一切見せない光の態度に男は少々気味悪くなる。

 「んなの、バスケ経験者が未経験者の女の子に潰されるところに決まってんだろ」

 光は相変わらずヘラヘラした様子でそう答えると、男は光の胸倉から手を離した。

 「お前、馬鹿か?、よく見ろ。俺たちは今二点先制してんだ」

 男の一人が自信満々に壁に掛けられた得点ボードを指さす。すると、光は今まで張り付けていた笑みを消して真顔に戻った。この時、類は光の中の狂気じみた何かに触れたような気がした。

 「そうか。ならそのまま続けてみるといい」

 光はその場で腕組みをすると、何か訴えるように類に視線を送る。

 (もしかして、さっきのゴールは光さんが…?)

 類は光の視線に気が付くと、小さく頷いた。

 「偉そうなガキだな…、まぁいい。おら!」

 男の一人が、ボールを投げる。すると、どういった訳かボールはゴールコート手前で垂直に地面へと落ちてしまった。

 「何やってんだ!お前!」

 仲間の一人が男に声を張り上げる。

 類はそんな二人の様子を見て光に視線を送る。すると、光はどこか優し気に類に微笑んで見せた。

 (やっぱり、光さんが操作してる…)

 ズルと言えばズルになるかもしれないが、この際仕方がない。せっかくのデートを中断されている身としては出来るだけ早くこのゲームを終わらせたい。

 類はそう思いなおすと、再びボールを構える。出来るだけ不自然にならない様ボールを優しく投げると、ボールは綺麗に弧を描いてゴールネットを通り抜けた。

 「やった!」

 類は思わずガッツポーズをする。例え光の力だとしても嬉しいことに変わりはない。

 「クソ!どうなってやがる!」

 男たちは、分かりやすく動揺の色を見せると、類が投げたボールを手に取った。

 「なんか細工してやがんな?」

 男の一人が類に詰め寄る。

 「ま、まさか!そんな事しませんよ!」

 「うるせぇ!、てめぇはもういい!おい!そこのクソガキ!お前が代わりに勝負しろ」

 男は類の肩を押すと、コートの外で見学していた光に声をかける。

 「え…、俺がやんの?」

 光はあからさまに嫌な顔を浮かべると、男たちに誘導されるがまま仕方なくコートの中へと入る。

 「ルールは簡単。多く得点を決めた方が勝ち」

 「めんどくせ…」

 光はボールを慣れた手つきでクルクルと回す。

 「余裕ぶんなよ。クソ餓鬼が。お前が負けたら有り金全部置いてきな」

 「あんたらが、負けたら?」

 「土下座してやるよ」

 男は偉そうにそう告げると、ボールを数回ドリブルして見せる。

 「つまんねぇな」

 「あ?」

 「んな掛け物じゃ、やる気でねぇって言ってんだよ…」

 光はそう言うと、ボールをゴールネットへと投げ入れる。

 (凄い…、普通に上手い)

 類はごく自然にシュートを決めてしまった光に、素直に驚きの表情を見せる。

 「じゃあ何だったらやる気でんだよ…」

 「そうだな。今いる大学から籍を抜くってのはどう?」

 「はあ?!ンな事できるわけねぇだろ!」

 光の提案に男達は、わかりやすく怒りを露わにする。

 「その代わり、俺が負けたらキャッシュで一千万払ってやるよ」

 「一千万って…、お前子供のクセにんな金持ってんのかよ?」

 「俺じゃなくて俺の親父がね…」

 「親父だと?」

 「俺の親父、こう見えて会社の会長なんだ。勉強のためだ、なんだっていえばきっとすぐに出してくれると思うよ?」

 間違ったことは言っていないが、果たしてそんな理由で一千万も出してもらえるものなのだろうか。

 「なるほどな…」

 男達は何やら思案する様に顔を見合わせる。

 「よし。その話乗った。後で嘘でしたなんて言うなよ?約束はしっかりと守ってもらうからな」

 男の一人はそう吐き捨てると「んじゃ、まずは俺から」と言ってボールをゴールネットへと投げ入れる。

 「うし、まず一点」

 当然、投げられたボールは綺麗に弧を描くとゴールネットをすり抜ける。

 「んじゃ、次は俺ね」

 光は特段動揺した素振りを見せることなく、ボールを投げ入れる。

 「はい。俺も一点」

 結局、両者一点も引くことなく。ゲームは延長戦へと続いた。

 「クソ、お前まさか経験者か?いくら何でも上手すぎだろ…」

 先ほどまで偉そうにしていた男の一人が、愚痴を零し始める。点数はお互いに二桁となり、勝敗の行く末が全く予想できない。

 「学生時代に少しな」

 「はあ?お前は今も学生だろーが」

 意味不明な光の発言に男の一人が言葉を挟む。

 「ああ、そうだったね。危ねぇ、危ねぇ…」

 光の発言に男達二人の顔色が変わる。

 「おい。まさかとは思うが…、アンタ大人か?」

 「さぁ?、どうだろうな…」

 「…」

 その発言に、男たちは静かに押し黙る。それもそのはず。今まで子供だと思って接していた相手が見ず知らずの大人だとしたらこの上ない恐怖であろう。

 「んなことより、早く勝負決めようぜ?俺はもう飽きてきた」

 光はそう言うと、ボールを再びゴールネットへと投げ入れる。絶対に外さない光のコントロール力と集中力に男達は少しの恐怖心を覚え始める。

 「はい。これでまた同点。どうする?まだ続ける?それともリタイア?」

 「…」

 「意地張ってんな。俺は救済処置でこんなこと言ってんの。わかる?」

 光は鬱陶しそうに男たちを睨みつける。もう、そこに高校生の仮面を被った光の姿は無い。

 「このまま続けて、大学から籍を抜くか、諦めてこの勝負を水に流すか、どうしたいんだ?」

 とても学生とは思えない堂々とした光の態度に、男達は顔を引き攣らせる。どうやら、ようやく自分達の武が悪いということに気づいたらしい。

 「…ま、まぁあんたが水に流すってんならそれでもいいぜ?な、なぁ?」

 「お、おう。負けねぇとは思うけど、このまま続けても埒が明かねぇしな…」

 男たちは言い訳がましくそう言うと、そそくさとその場を立ち去っていった。

 「あー、疲れた…」

 男達が立ち去ったことを見届けると、光はその場に座り込む?どうやら見かけによらず神経を削っていたらしい。

 「すみません…」

 類は再びコート内へと足を踏み入れると、座り込む光の肩に手を添える。

 「別にいいよ…。お前を一人にした俺の責任もある」

 お前は何も悪くないよ、と言って頭を撫でてくる光に類は不覚にもときめいてしまう。

 「にしても、今時の大学生ってあんな感じなの?腕は確かなのに、あれじゃあ色々と勿体ねぇな…」

 「ほんとですね…、先が思いやられます」

 類は小さく呟くと、二人は顔を見合わせて笑った。
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