性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 「あーあ!結局、ダブルデートにはならなかったねー」

 日も暮れかけた頃、ようやくエリカ達と合流した類と光は、とある飲食店を訪れていた。

 「エリカちゃんが先にどっか行っちゃったんじゃん」

 「あー、そうだった!あーしのせいか⭐︎」

 エリカは特段悪びれる様子もなく、テヘっと舌を出しておどけて見せる。

 「んなことより…、どこまでいったの?」

 グイグイと体を寄せて詰め寄ってくるエリカに類は首を傾げる。

 「ゲームセンターの後、そこにあるコーヒーショップに…」

 「そうじゃなくて!ヒカルンとチューとかした?」

 「はぁ?!」

 エリカの言わんとしていることを理解した類は思わず変な声で反応する。

 「どーなの?どーなの?したの?してないの?」

 「す、する訳ないじゃ無い!」

 すると、テーブルを挟んで二人の様子を見ていた光がエリカの足を思い切り蹴飛ばした。

 「痛った!!」

 「なーに、くだらねぇ事聞いてんだ…」

 「ひどーい!暴力!変態!ロリコン!」

 冗談では通用しない単語を全て並べ切ったエリカに、光は容赦なく術を発動すると、その口を上下に塞いでしまった。

 「んなことより、類。お前はエリカに聞きたいことがあったんじゃないのか?」

 「聞きたいこと?」

 「ケータイだよ、ケータイ」

 光のジェスチャーに類は、あっ!と大きな声をあげると慌ててスマホを取り出してエリカにそれを差し出した。

 「エリカちゃん!私にメッセージのID教えて下さい!」

 ようやく、光の術から解放されたエリカは口元を抑えながらげっそりとした表情で頷く。

 「あー、まじ死ぬかと思った…、メッセージIDね!オッケー♪あ、ついでに馬鹿礼二のと、まこっちのも教えとくね!あーしらチーム社《やしろ》っていうグループ組んでるから!」

 エリカはそういうと、物凄い手際の良さで類のスマホに全てのメッセージIDを登録した。

 「勝手に登録しちゃっていいのかな?」

 「いいの!いいの!馬鹿礼二も、まこっちも普段暇人だし、あーしも暇してるからさ!いつでもメッセージ飛ばしてくれてオッケーよ!」

 エリカはそう言ってニッコリと微笑む。

 「いいなぁ、楽しそうで…。僕も混ぜて欲しいなあ」

 「え?別にいいよ?ヒモリンもグループ入る?」

 檜森はその言葉に目を輝かせるが、光の突き刺す様な視線に「いや、やっぱ遠慮します…」と首を項垂れた。

 「さて、んじゃそろそろ解散するか」

 「えー!まだ遊び足りない!」

 エリカはブーブーとブーイングをかます。

 「でも、もう20時だぞ」

 光は腕時計を見ながら呟く。

 「えー、服屋さんとか行きたかったんだけどなー」

 「んなのもう閉まってんだろ…」

 「ですよねー」

 項垂れるエリカに檜森は優しく微笑む。

 「じゃあ、最後にダーツでもどうです?ここの近くにいい店知ってるんですよ!」

 「行く!」

 檜森の提案にエリカは目を輝かせる。

 「俺は行ってもいいけど、あんま遅くなる様ならコイツは家に返す必要がある」

 「えー!なんでよ!」

 「風営法の規定だ。遅くまで未成年は遊べねぇ決まりになってんだよ…。まぁ俺たちも身分証明書するもんなかったら終わりだけど…」

 「わ、私、持ってません!」

 「だよな…」

 「じゃ、じゃあ一時間だけ!一時間だけやったらみんなで帰りましょう!それでどうです?」

 檜森の提案に一同は頷くと、彼が行きつけだと話すダーツ場へと足を運んだ。


 ***

 「あり?意外と空いてる感じ?」

 エリカは嬉しそうにテーブルを陣取ると矢の入ったケースをカシャカシャと鳴らす。

 「ってか、超久々なんですけど」

 「僕もです」

 檜森は鞄を下ろすと、ダーツ台に近づき何やらボタンを操作し始める。

 「普通にカウントアップでいいっすね?」

 「オッケー!」

 聞いた事ない遊び方に類は戸惑いの表情を見せるとエリカは優しく「沢山点取ったら勝ちって奴!」と教えてくれた。

 「時間もないので、今日はチーム戦にしましょう」

 「じゃあ、あーしはヒモリンと!」

 「じゃあ、俺はコイツとね」

 「私、光さんとなんですか?」

 「嫌なの?」

 光の言葉に類は頭をブンブンと横に振る。

 「い、いえ!そういう訳では…」

 「類さんは初心者なので、先輩との方が何かと良いと思いますよ?」

 「そ、そうですか…」 

 類は手渡されたダーツの矢をまじまじと見つめる。

 「あ、そうだ!せっかくですから、罰ゲームでも決めておきましょう!」

 「賛成ー!賛成ー!」

 檜森の提案にエリカは、嬉しそうに手を挙げる。

 「お前らいいのかよ、俺結構強いけど…」

 光は腕まくりをしながら答える。

 「それはこっちの台詞ですー!で、どんな罰ゲームにする?」

 「じゃあ、ここは分かりやすく負けたチームが勝ったチームの言うことを何でも一つ聞くというのはどうでしょう?」

 「何でも…ですか」

 類は不安そうに呟く。

 「ええ、何でもです。まぁ簡単な王様ゲームだと思って下さい」

 何を企んでいるのか分からない檜森の笑みに類は、表情を強張らせる。

 「んなビビんなよ。俺と同じチームの時点で勝ち確定だから…」

 「はあ?、んなの勝負してみないと分かんないしー!」

 「そうですよ!先輩!」

 エリカの反論に檜森も同じように口を尖らす。

 「お前らって本当、めでたい頭してんのな…」

 光はそう言うと、早速ダーツの矢を軽々と的へと投げつけた。

 大きな音と共にカウントが60上昇する。

 「げ…、最初からトリプル狙いとかタチ悪っ!」

 エリカが、わかりやすく顔を顰める。

 「たりめぇだ。遊びじゃねぇんだよ」

 どこか楽しそうに、エリカに反論する光の姿に類は何故か見惚れてしまう。

 (光さん、なんだか楽しそう)

 今まで、仕事上での光しか見てこなかった類は彼がこんなにも表情豊かなのだと初めて思い知らされる。

 「はい。次、お前の番」

 光の言葉に我に返った類は、慌ててダーツの矢を構えると少々投げやりに矢を投げた。

 しかし、矢は変な方向へと回転しバチンと音を立てて地面に落下してしまう。

 「ハハハ、想像通り」

 光の乾いた笑い声に、類は途端に恥ずかしくなる。

 「仕方ありませんよ。初めての時は皆そんな感じです」

 「そー、そー。あーしも最初全然当たらなかったし!」

 「俺は最初からできたけど?」

 「…」

 「…ごめん、ごめん。んな睨むな。冗談だって」

 言葉とは裏腹に優しく笑う光の姿に、類も仕方なく微笑む。

 「…別にいいですよーだ。光さんの意地悪には慣れてますから」

 類はそう言って光の隣に並ぶ。すると、何を思ったのか光はそっと類の耳元で囁いた。




 「俺が意地悪するのはお前だけだよ、類」




 何故だろう。

 その言葉が

 酷く、類の心を高鳴らせた。
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