性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
第十八章【最果ての宿】
「準備できた?」

光は大きめの黒い鞄を肩から掛けると、二階から降りてきた類に声をかけた。

 「一応できました…」

 類はどこか他人行儀にそう答えると、自身のバックを両手で持ち上げる。

 「よし。じゃあ行こうか」

 二人は駐車場へと降りると、黒塗りの高級車へと乗り込んだ。

 向かうは、小さな温泉宿。

 幼き頃に母とよく訪れたその宿は、一般の人間では辿り着けない場所に存在している。

 「着くまで、少し時間かかるから寝ててもいいよ」

 光は、ハンドルを切りながらそう伝えると、類は戸惑い気味に口を開いた。

 「あまり、眠くないです…」

 どうやら、少し緊張しているようである。それもそのはず、記憶を失った類にしてみれば赤の他人と突然二人きりで旅行しているのと変わりないのだ。

 「あー。そっか…、そうだよな。じゃあ、適当に寛いでてよ。あ、それとも音楽でも聴く?」

 類はその提案に首を振る。

 「光さ、お兄ちゃんの話が聞きたいです…」

 「俺の話?」

 「お父さんのこととか、お母さんのこと、あとは昔の思い出とか…」

 俯き加減にそう呟いた類に光は戸惑う。

 「…母さんは、凄く優しい。優しすぎて、疲れて、いつもしんどそうだったかな」

 ポツリ、ポツリと話始めた光に類は静かに耳を傾ける。

 「だから、いつも何かに依存してる。依存しなきゃ生きられないんだ…」

 「何に依存してたんですか?」

 「主に人かな。孤独が駄目な人だった、だから沢山友達作って、常に何かに族してた。父さんと出会ったのもその頃」

 光はハンドルを切りながら話を続ける。

 「父さんはとある組織の偉い人なんだけど、あんまり性格がいい人じゃなかった。仕事はできたが、どちらかと言えば支配的で、独善的。あまり人に興味がない人だった」

 今思えば、その出会いが最悪の始まりだったのかもしれない。

 「母さんは、すぐに父さんを好きになった。自分を支配し、管理し、安心させてくれると、教祖のように父さんを崇拝し始めた。やがて、二人には子供ができた」

 「それが、私達…?」

 類の質問に光は、乾いた唇を舐める。

 「…うん、まぁ、そうなるね」

 「…」

 切れの悪い返事に、類は光の横顔を見つめる。

 「まぁ、両親の話はこんなとこにしといて、思い出話でもしようよ。俺とお前のさ」

 光は話を無理やり切り替えると、ありもしない子供時代の思い出を語って聞かせた。

 まるで、道化師だ。

 類は終始無言だった。

 でも、光は話続けた。

 もう、ここまできたら出来る限り偽る事しか出来ない。

 嘘の穴埋めには更に大きな嘘が必要だ。

 車内に光の乾いた笑い声だけが響く。
 
 いずれ、この瞬間もいつか思い出になる。 

 人生の全ては思い出という形になって消滅する。
 
 ならば、今だけは許してほしい。

 嘘つきで傲慢な自分を許して欲しい。
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