性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 二人が隠れた温泉地に辿り着いたのは随分と日が暮れてからの事だった。

 類は言われた通りに車から降りると、見たこともない美しい景色に心を奪われる。

 「凄い…」

 つい先ほどまで、見慣れたコンクリートジャングルの中に居た筈なのに、この場にはそんな面影は一切見られない。

 辺り一面には、見たこともない美しい花が咲き誇り、その一つ一つが宝石のように美しい。木々で覆われているわけでもないのに、空から紅葉のような美しい紅蓮色の葉がハラハラと地面に落ちていく。

 「ここは、限られた奴だけが知ってる秘境でね。特別な場所なんだ」

 光は陰陽師という言葉を伏せて、出来るだけ端的に説明をする。

 「なんだか、異世界みたい…」

 「うん。俺もそう思う」

 ここは古くから、格式の高い陰陽師達の憩いの場として有名な場所であった。今でもそれは変わらないが、近年金儲けにしか意味を見出せなくなった陰陽師達は自然とこの場所から遠のいてしまった。

 恐らく、もうこの場所すら思い出せないに違いない。

 「ここの女将が、母さんと仲良くてね。ガキの頃よく連れてこられたんだ」

 光はそういうと、車から、類の鞄と自身の鞄を取り出して歩き始める。

 類はしばらくの間、幻想的な景色に酔いしれていると、ふと前方から何者かが姿を現した。

 驚いた類は慌てて光の背後に身を潜めると、肩から顔を出して警戒心を露わにする。

 「んな、怖がんなくていいよ。旅館までの案内人だ」

 光の言葉に、現れた人物は優しく微笑むと類に向かって丁寧にお辞儀をした。

 年は五十代くらいだろうか?

 綺麗な紳士服を身にまとい、頭には小洒落た西洋の帽子を被っている。

 「す、すみません…」

 慌てて謝罪の言葉を述べると、紳士は再び微笑んでみせる。

 「出迎え、感謝します。荷物をお願いできますか?」

 紳士は光の言葉にも笑顔で返事をすると、ひょいと二人分の荷物を抱えて先に歩き出す。

 「あの方…、無言ですね…」

 「出迎えようの簡単な式神だからね」

 「簡単な式神?」

 光の言葉に類は首を傾げるも、光は気にしなくていい。と言って、それ以上何も話さなくなってしまった。

 
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