性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 案内人の紳士に着いていくと、二人の前に古風な温泉宿が姿を現した。

 紳士が宿の引き戸を横に引くと、中から女の声が響いた。

 「お入り」

 類はその声にピクリと肩を震わすが、光は慣れた様子で宿の中へと足を踏み入れる。

 「おや、誰かと思えば…、はるちゃんの…」

 「お久しぶりです」

 光に続いて類も宿の中に足を踏み入れると、そこには見目麗しい一人の女が、番台に腰掛けていた。女は驚いたといった表情で光と類を交互に見つめている。

 「おや、まぁ…、これは驚いた…」

 女は表情一つ変えずに、光の方へと近づくと遠慮なくその体を抱きしめる。類はそんな女の行動に少し驚くも静かに二人の成り行きを見守った。

 「…こんなに、大きくなって」

 女はようやく光から離れると、今度は類の方へと視線を送る。

 「ああ、驚かせてしまったね。安心しな。私はこう見えてもう随分と年を取っているからね。アンタのボーイフレンドを奪ったりはしないさ」

 「え、いや…、そういうわけでは…」

 戸惑い気味に言葉を返す類に光は苦笑する。

 「この人は母さんの古い知り合いで、京子さんっていうんだ」

 光の紹介に京子はどこか妖艶に微笑むと「以後お見知りおきを」と言って丁寧に頭を下げる。

 「にしても、光ちゃん、久しぶりやねぇ、昔あった時はアタシの腰くらいの大きさだったのに…」

 京子は懐かしそうに自身の腰あたりに手を添えると、まるで自分の子供の成長を懐かしむかのように優しく微笑む。

 「もう、そんなに経つんですね…」

 「ほんま、あっという間やね…はるちゃんが居なくなって私は本当に悲しかったんだよ…」

 京子の言葉に、類は首をかしげる。

 「ハハ、でも京子さんなら会いに行けるでしょ?」

 「まぁ、行けなくはないがね、行ったところで感じる事しかできないさ」

 京子は寂し気に呟くと、壁に掛けられたルームキーを光に手渡す。

 「でも、光ちゃん、恋人と来るなら早めに教えとくれよ。そしたら色々サービスしてやったのに」

 「誰にも知られたくなかったんだ」

 「何かあったのかい?」

 「いや?まだ何も」

 光はそう言って微笑むと、指でクルクルとルームキーを回す。

 「随分と含みのある言い方だね」

 京子は訝し気に光を見つめる。しかし、光はこれ以上話したくないといった様子で早々に話を切り上げる。

 「その内わかるよ、京子さん。鍵、ありがとう」

 「光ちゃん…」

 「今が過去になったら、その時はまた三人で話をしよう」

 光のその言葉に京子は何も言い返すことができなかった。
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