彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません

 「今日は、ふたりだからな」

 その言い方があまりにも真剣で、思わず息を呑んだ。

 「う、うん」

 頷くと、しげぴーはわずかに表情を緩めた。

 「仕事終わり、七時でいい?」

 「大丈夫」

 「じゃ、いつものとこで」

 それだけ言って、しげぴーもトレーを持って立ち上がる。

 「ちゃんと食えよ」

 最後にそう言い残して、食堂を出ていった。

 また一人になった席で、私はしばらく動けなかった。

 食堂は相変わらず賑やかなのに、頭の中だけが妙に静かだった。

 瀬名先生の言葉が、頭の中で何度も繰り返される。

 どうして、先生はあんな風に振る舞えるんだろう。

 私が全部忘れてしまっているのに。

 大学時代のことも。
 事故のあと、先生がどんな気持ちで私に会っていたのかも。

 何も知らないままなのに……。

 それなのに。

 あんなふうに笑われたら。

 あんなふうに言われたら。

 胸が、痛いくらい鳴る。

 ……どうしよう。

 今夜はしげぴーと飲みに行くのに。

 頭の中に浮かぶのは、どうしても瀬名先生の顔だった。

 
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