彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません

 「吉岡のこと本気じゃなきゃ、あいつあそこまで面倒くせーことしない」

 「面倒くさいって……」

 「吉岡相手だと、あいつずっと面倒くせーよ」

 吐き捨てるように言って、しげぴーはグラスのビールを流し込んだ。

 しげぴーが言ったことを否定できない。

 今までのやり取りを思い返すと、苦しくなるくらい、瀬名先生の気持ちが私に向けられていたことに気づかされる。

 しげぴーは私の表情を見て、小さく笑う。

 「……ほんと、わかりやすいな」

 「なにが」

 「顔。全部出てる」

 そう言われて、慌ててグラスに口をつけた。

 冷たいはずなのに、顔が熱い。

 「とりあえず飲め」

 「飲んでるよ」

 「足りねーから」

 その言い方が、さっきまでより少しだけいつものしげぴーに戻っていて、張り詰めていた空気がほんの少し和らぐ。

 それでも、胸の奥は全然落ち着かないままだった。

 しげぴーの真っ直ぐな言葉も。

 瀬名先生のことも。
 
 気持ちを整理するつもりだったのに、余計に絡まってしまって。

 ――それでも、このままじゃいけないことだけはわかっている。

 答えは、もう見えている気がするのに。

 その一歩だけが、どうしても踏み出せなかった。

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