彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません
翌日、約束の時間より少し早く外に出ると、マンションの前にはすでに白のSUVが停まっていた。
軽く息を整えながら、自分の格好を一瞬だけ見下ろす。
やわらかな素材のトップスに、ストンと落ちるシルエットのロングスカート。上には淡い色のカーディガンを軽く羽織っている。
気合いを入れたつもりはないのに、なぜか少しだけ落ち着かない。
運転席の窓がゆっくりと下がり、眼鏡越しの視線がまっすぐこちらを捉える。
「おはよう」
変わらない声のはずなのに、昨日とはまったく違う意味を持って響く。
「……おはようございます」
ドアを開けて助手席に乗り込み、シートに身体を預けた瞬間、ふと視線がぶつかった。
瀬名先生はシンプルなカットソーに黒のジャケットを羽織っていて、いつもより少しだけラフな雰囲気なのに、不思議と目を引く。
仕事のときとは違うはずなのに、その距離がむしろ近く感じて、余計に落ち着かない。
「そんな顔してると、また勘違いするけど」
「……何をですか」
「昨日の続き、期待してるのかなって」
一瞬で体温が上がり、慌てて首を横に振る。
「ち、ちがいます」
その様子に小さく笑う気配がして、さらに落ち着かなくなる。
「今日はちゃんとデートだから、無理に何かしたりはしないよ。たぶん」
「たぶんって……」
「ひより次第かな」
さらっと言われて言葉に詰まる。
昨日初めて名前で呼ばれたはずなのに、不思議と違和感がないその呼び方に、過去の時間の存在を突きつけられるようで、胸の奥がまたざわついた。