彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません

 夜勤明けの朝、並んで座ったベンチ。

 眠気の残るぼんやりとした頭の中で、先生が何気なく眼鏡に触れながら言っていた。

 ――『これさ、明けの日によく使ってるんだけど、俺の大事な物なんだよね』

 あのときは、ただの会話として聞き流しただけだった。

 「先生って、もっと高級なブランドの眼鏡使ってそうなイメージでした」

 そう言った自分に、先生は少しだけ笑って、

 ――『どんな高級ブランドよりも価値があるんだ。大切な人からのプレゼントだからさ』

 そう、答えていた。

 そのときの横顔。

 少しだけ優しくて、どこか遠くを見るような目。

 今になって、その意味がゆっくりと浮かび上がってくる。

 ……大切な人って。

 そこまで考えて、ふと息が止まった。

 もしかして――

 「どうしたの」

 不意に覗き込まれて、思考が途切れる。

 「……その眼鏡」

 気づけば口にしていた。

 「前に言ってましたよね。大切な人からもらったって」

 一瞬、ほんのわずかな間が空く。

 それから瀬名先生は、ゆっくりと目を細めた。

 「……うん」

 短く頷いて、少しだけ口元を緩める。

 「気づいた?」

 その一言で、心臓が大きく跳ねた。

 「……覚えてたんだね。その話」
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