彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません
静かに重ねられた言葉に、息が詰まる。
否定されないことが、何よりの答えみたいだった。
視線を落としたまま、さっきまで見ていた眼鏡の輪郭をもう一度思い浮かべる。
あの夜勤明けの朝、何気なく聞き流した言葉。
大切な人からもらったものだと、少しだけ照れたように笑っていた横顔。
その“大切な人”が、自分なんだと気づいた瞬間、胸の奥が大きく揺れた。
――私が、あげたものなんだ。
そう思った途端、うまく息ができなくなる。
嬉しいはずなのに、同じくらい苦しい。
何年も前にもらったものを、今も変わらず使い続けてくれていたこと。
それが、思っていたよりずっと重く胸に落ちてくる。
私は何も覚えていないのに。
どんなふうに選んで、どんな顔で渡したのかも思い出せないのに。
先生だけが、その時間をずっと持ち続けていた。
そのことが、切なくてたまらなかった。
「……まだ、使ってくれてるんですね」
ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど小さい。
「うん」
返ってきたのは、たったそれだけだった。
でも、その何でもない一言の中に、長い時間がそのまま詰まっている気がして、胸の奥がまたきゅっと縮む。