彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません

 しばらくそのまま座っていたけれど、目尻の涙を拭って立ち上がる。

 足元に落ちていた小さな花びらが目に入って、しゃがみこんでそっと拾い上げると、昼間の中庭の景色が一瞬だけ重なった。

 『答えは、自分の中にある』

 『自分で選んだ道を、正解にするの』

 その言葉を、今度はちゃんと受け止められる気がした。

 怖さが消えたわけじゃない。

 それでも、もう前に進みたい。

 立ち上がって、スマホを取り出す。

 少しだけ迷って、指を動かした。

 「今からお話しできませんか?」

 送信してからの時間が、やけに長く感じる。

 心臓の音だけが、やけに大きく響いている。

 やがて画面が光った。

 「大丈夫だよ。迎えに行こうか?」

 その文字を見て、さっきとはちがう鼓動が加速していく。

 それに返信して、スマホをバッグにしまった。

 手の中にあった花びらが、ふっと風にさらわれていくのが視界の端に映ったけれど、それを追うことはなかった。

 もう、迷わない。

 私はそのまま、瀬名先生のもとへ向かって歩き出した。
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