彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません
side.瀬名
予定より少しだけ遅くなった業務を終えて、電カルを閉じたあとも、しばらく席を立つ気になれなかった。
やるべきことはもう残っていないはずなのに、どこかで区切りがつかなくて、無意識にペンを指先で転がしている。
小さく息を吐いてからようやく立ち上がり、白衣を整えるようにしてロッカーに収めると、静かに扉を閉じ、そのまま廊下へ出た。
夜勤帯に入った院内は、昼間とは違う落ち着いた空気に変わっていて、足音だけがやけに響く。
そのまま外に出て、駐車場へ向かう。
空はもう完全に夜に変わっていた。
時間の感覚が、思っていたよりも早く進んでいたことに気づく。
車に乗り込み、エンジンをかける。
シートに身体を預けたまま、ほんの一瞬だけ目を閉じた。
帰るだけのはずなのに、なぜかそのまま発進する気になれない理由が、自分でもわかってしまっているあたり、少しだけ可笑しくて、思わず小さく息が漏れる。
一般内科に行くことがなくなってから、院内で顔を合わせることもほとんどなくなった。ただそれだけのことが、思っていた以上に自分の中で大きかったらしい。
自分でも呆れるくらい単純だと思う。