彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません

 『瀬名先輩』

 そう呼ばれていた頃のことが、ふとよぎる。

 付き合い始めて、少し経った頃の帰り道。人気のない通りを並んで歩いていたとき、ひよりがふいに立ち止まった。

 「どうしたの」

 振り返ってそう聞くと、少しだけ言いにくそうに視線を逸らしてから、小さく息を吸う。

 「……あの」

 言葉を探している沈黙のあと、意を決したように顔を上げた。

 「キスって……その、どういうタイミングでするんですか」

 一瞬、言っている意味を理解するのに時間がかかって、次の瞬間、思わず笑いそうになるのを堪えた。

 「何それ」

 「だって……わからなくて」

 本気で言っている顔に、余計に可笑しくなる。

 ――かわいすぎるだろ。

 そう思った瞬間、少しだけスイッチが入る。

 「今とか?」

 軽く言って一歩近づくと、ひよりの肩がびくっと揺れた。その反応が思っていた以上に可愛くて、思わず息が浅くなる。

 「やめときます?」
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