彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません

 そう言って少しだけ距離を戻すと、ひよりは一瞬迷って、それから、

 「……やめなくていいです」

 小さく、でもはっきりとそう言った。

 その瞬間、何かが切れた。

 気づけば手を伸ばしていて、頬に触れたまま顔を引き寄せる。触れる直前で一瞬だけ止まって、逃げない視線を確認してから、そのまま唇に触れた。

 軽く、ほんの一瞬だけ。

 それで終わるつもりだったのに、離れたあとも視線が外せない。呼吸が近くて、そのままもう一度触れたら、たぶん止まらない気がした。

触れたばかりの感触が、まだ残っている。

 ほんのわずかに震える睫毛と、近すぎる距離に、意識が持っていかれる。

 ――やばいな。

 そう思った瞬間、無理やり距離を取った。

 「……今日はここまでにしとく」

 自分でも思っていたより低い声が出て、ひよりは顔を赤くして、小さく頷いたーーー。

 うぶで、純粋で、無防備で。

 ーーーあの頃から、変わってない。
< 149 / 167 >

この作品をシェア

pagetop