彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません

 エンジンの音だけが静かに流れている。

 何か話さなきゃと思うのに、言葉が出てこない。

 「……寒くない?」

 不意にかけられた一言に、少しだけ肩の力が抜けた。

 「大丈夫です」

 「我慢せずに言っていいからね」

 「はい、ありがとうございます」

 その後にまた訪れる沈黙。

 私はこの後のことで、頭の中がいっぱいだ。

 窓の外に流れていく街の灯りを、ぼんやりと目で追う。

 見慣れているはずの景色なのに、どこか遠く感じて、うまく現実に繋がらない。

 隣にいる先生の気配ばかりに意識が引っ張られて、まともに呼吸ができているのかさえわからなくなる。

 さっきから、何度も名前を呼ばれたときのことを思い出してしまう。

 『ひより』

 それだけで、どうしてこんなにも胸が締めつけられるんだろう。

 思い出せないのに、それでも、どこかでその呼び方を、ずっと待っていたような気がした。

 先生は今、何を思ってるんだろう。
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