彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません

 チラッと右隣を盗み見る。

 暗闇の中、外の明かりに時々照らされる先生の横顔が、いつも以上にカッコよくて余計にドキドキする。

 座りこごちの良いシートでも、落ち着かない。

 信号で車が止まる。

 何か話さなければと思い、思い切って先生の方を見た。

 「先生は……明日も仕事ですか?」

 そんなことしか浮かばないのに、

 「いや、明日は休みなんだ」

 低音で優しい声が返ってくる。

 「ひよりは?」

 続けてそう言う先生がこっちを向いて、車内で初めて目が合う。

 一瞬、息が止まりそうになった。

 そこで信号が青に変わり、先生は前を向き直し再びアクセルを踏む。

 「私も、明日は休みです」

 「そっか」

 それだけ言って、先生は前を向いたまま、ハンドルを握り直す。

 また静かになる車内。

 さっきまでとは違う沈黙に、少しだけ息が詰まる。

 同じ“休み”なのに、どうしてこんなにも意味が違って聞こえるんだろう。

 ――明日も、会えるかもしれない。

 そんなことを一瞬思ってしまって、慌てて打ち消す。

 違う。

 今日は、そういう話をしに来たんじゃない。

 ぎゅっと膝の上で手を握る。

 少しだけ視線を上げると、フロントガラスの向こうに、見慣れた道が見えてきていた。
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