彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません

 「懐かしいな、この道。久しぶりに来たかも」

 「私もです」

 「変わらないね」

 「……そうですね」

 それ以上の言葉が、続かなかった。

 駐車場の門は空いていた。

 変わっていなければ、閉門時間は22時頃だったはず。

 駐車場には数台の車が停まっていて、完全に人気がないわけではなかった。

 先生は空いているところに車を回すと、ゆっくりと駐車させた。

 まるで私に猶予を与えるかのように。

 やがてエンジンが切れて、静寂が訪れる。

 その静寂の中で、私の心臓の音だけがうるさく鳴り響く。

 隣の先生の気配に、神経が集中していた。
 
 逃げようと思えば、いくらでも逃げられる。

 今ならまだ、「やっぱりなんでもないです」と言ってしまえば、それで済む。

 それでも、

 もう、目を逸らしたくはない。
 
 ずっと曖昧なままにしてきた気持ちも、気づかないふりをしてきた自分の弱さも、全部まとめて、ちゃんと向き合いたい。

 思い出せないことは、きっとこれからも変わらないかもしれない。

 先生と過ごしてきた時間も、私だけが知らないまま、取り戻せないままなのかもしれない。

 それでも、

 今、この瞬間に感じている気持ちは、嘘じゃないから……。

 「あの、」
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