彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません

 思い切って声を出す。

 その声が僅かに震えた。

 気配で、先生がこっちを見たのがわかった。

 膝の上で握っている手に力が入る。

 「私は……やっぱり、ここに来ても……思い出せなくて……」

 言い切ったあと、喉の奥がひりつく。

 逃げ道を自分で塞いでしまったみたいに、息がうまく吸えない。

 小さく息を吸って、ぎゅっと握っていた手に、さらに力を込める。

 「瀬名先生と、どんなふうに過ごしてきたのかも……どんな気持ちでいたのかも、全部ちゃんとはわからないけど」

 自分でもわかるくらい、声が揺れる。

 「それでも――」

 怖くて見れなかった先生の顔を、思い切って見る。

 「今の私は、先生のことが好きです」

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