彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません

 小さくそう答えると、先生の手がゆっくりと下りた。

 視線が合う。

 そのまま、ほんの一瞬だけ迷うような間があって、

 「……じゃあ」

 低く落ちた声。

 「それでもいいなら、来る?」

 試すようなその言い方に、胸がぎゅっと締めつけられる。

 問いかけなのに、もう答えは決まっている気がした。

 「……はい」

 頷いた瞬間、先生の目がわずかに細くなる。

 次の瞬間、ふっと笑った。

 「……ほんと、やばいな」

 小さく呟くその声に、また心臓が跳ねる。

 エンジンがかかる。

 さっきとは違う音に聞こえるのは、きっと気のせいじゃない。

 車がゆっくりと動き出す。

 行き先は、聞かなくてもわかっていた。

 
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