彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません

 先生の部屋の前に着くと、先生はポケットから鍵を取り出し、流れるような動作で差し込む。

 ガチャ、と解錠の音。

 その音が、やけに大きく感じた。

 「どうぞ」

 少しだけ扉を開けて、先に入るように促される。

 一瞬だけ迷ってから、小さく頷いた。

 「……お邪魔します」

 一歩、中へ踏み出す。

 先生が靴を脱ぐのを待ってから、私も続く。

 一つひとつの動作さえも、どこかぎこちない。

 部屋に足を踏み入れた瞬間、思わず息をのんだ。

 大きな窓の向こうに、夜景が広がっている。

 高い位置から見下ろす街の明かりが、静かに瞬いていて、まるで別の世界みたいだった。

 部屋の中は、余計なものがほとんどなくて、すっきりとしている。

 モノトーンでまとめられたインテリアは、どこか先生らしくて。

 それなのに、不思議と冷たさはなく、ほんの少しだけ温かい空気が漂っていた。

 ここで、先生は過ごしているんだ。

 そう思っただけで、胸の奥がきゅっとなる。

 「適当に座ってて。夜は食べた?」
< 162 / 167 >

この作品をシェア

pagetop